試乗レポート
新型「メルセデスAMG SL」、世界初の「エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー」を搭載した4気筒エンジンの仕上がりは?
2022年12月8日 09:10
2シーターから2+2に
メルセデス・ベンツに「SL」が継続されたことは喜びだ。言うまでもなくSLは公道を走れるレーシングスポーツとして1952年に発表されたのが始まりだ。1954年に発売された300SLは誰もが憧れたガルウィングドアとユニークな盾形のヘッドライトを採用し、世界の自動車ファンの垂涎の的だった。
やがて時代の変化と共にメルセデス最高のラグジュアリースポーツとなり、存在感を示している。そのSLが300SL誕生から70周年を迎え、新たにメルセデスAMGの手によるフルモデルチェンジを行なった。すべてを一新しパッケージングもこれまでの2シーターから2+2になった。しかしデザインの流麗さは少しも損なわれておらず、キリリとした精悍なフォルムはむしろ際立っている。
パワートレーンも一新された。今風のエンジンは直列4気筒2.0リッターターボで職人の手で組み上げられた「M139」型エンジンだ。多くの手が入れられているがハイライトはエレクトリック・エキゾーストガス・ターボだ。メルセデスF1由来の技術で、排気タービンと吸気コンプレッサーの間のターボ軸に直結された電気モーターで、モーターの力によってターボチャージャーのレスポンスを上げるものだ。自然吸気以上にアクセルのツキが良くなるシステムだ。
またアクセルONだけでなくOFF時もブースト圧を維持できるので素早い反応が期待できる。モーターの電源は48Vシステムを使い、お察しの通り第2世代のベルトドリブンスタタージェネレーター(BSG)、すなわちマイルドハイブリットが採用され、発進時の短時間の補助、エンジンのスタート・ストップ機能を極めてスムーズに行なうことができる。エンジンの最高出力は280kW(381PS)/6750rpm。トルクは480Nm/3250-5000rpmとなっており、低回転から大きな出力を出せ、実用的で使いやすいパワーユニットを目指している。
トランスミッションもひと味違う。AMGスピードシフトとネーミングされている通りレスポンスの速いのが特徴だ。9段ギヤを持ち流体トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを搭載しており、流体の滑らかなつながりよりもスポーツカーらしいダイレクト感と変速の素早さを重視したトランスミッションだ。シフトダウン時にはブリッピングも行ない、まるでMT車のような面白さも楽しめる。また例えばギヤ2段落としのような操作をしても、ダブルクラッチ機能でスムーズに入るので(もちろん許容回転内で)コーナーも楽しくなる。
フレームはアルミの複合素材を使ったスペースフレームで、これ自体の重量は270kgと軽量だ。そしてサスペンションも凝っている。前後5リンクのサスペンションはタイヤの接地形状をコントロールしやすく、メルセデスでも初採用となる。電子制御による可変ショックアブソーバーと軽量スプリングのセットでAMGらしい走り志向のセットアップがなされている。
ソフトトップは電動で開閉できるのはもちろんだが、上げた状態では機密性が保たれ快適で美しいプロポーションを持っているが、降ろした状態も伸びやかでキリリと引き締まったデザインはすばらしい。
ただしトップを降した状態だと風の巻き込みがあるのは仕方のないところか。2シーターだと前席直後にウィンドデフレクターを備えることができ、かなりシャットダウンできるが、2+2のSLの場合はリアシートを使わない場合に限ってオプションのウィンドデフレクターを装着することになる。この後席は150cmまでの身長とされているので大人が常用することは無理がある。その代わり、ラゲージスペースはスポーツカーに期待されている以上の使いかっての良さがある。
SLKのフットワークの良さとSLのラグジュアリーを併せ持つ
素晴らしいデザインのSLは眺めているだけで心が明るくなるが、走らせるとなおさらだ。
ドライブモードはスノーに相当するSlipperyとComfort、Sport、Sport+、RACE、Individualの6つのポジションがあり、それぞれでアクセル特性、トランスミッションのレスポンス、ショックアブソーバー、ステアリング、EPSの設定などが変えられるが、サスペンションだけに絞るとComfort、Sport、Sport+の3段階のマップを持っている。
ドライビングシートは低い位置にあり、スポーツカーらしい安定した姿勢を取れる。視界は近くよりも少し先に目がいくような位置になっており、トレースラインを取りやすい。
ハンドルの操舵力はメルセデスの中では少し重めになっているが動きは軽快だ。SLはラグジュアリースポーツらしく重厚な味を持つ印象があったが、新しいSLはライトスポーツの「SLK」のフットワークの良さを併せ持っていた。狭い道路でも大きさを感じることのない軽快なハンドリングが感じられる。もう少しペースの速いツイスティなコースからSLは本領を発揮する。ソフトトップを降すと風は後ろから巻き込んでくるが、シートバックからは温風が流れてくるので意外と暖かい。ロードスターならではの風を感じ、音を聞くのはSLの醍醐味だ。
エンジン音は4気筒らしい少しノイジーな音と共に軽く回る感触だ。やはりマルチシリンダーとは異なる音は時代の流れを感じさせる。エンジン回転は素早く、新しいエレクトリックターボの新鮮な感動は内燃機関の進化はまだまだ奥が深いと感じさせた。アクセルの動きに素早く反応して力強く加速し、上昇するパワーに驚いた。出力そのものも十分、いや1780kgと軽く仕上がった車両重量には十分すぎるパワーを持ち、重厚感よりもメルセデスAMGの目指す軽快でパワフルなロードスター像を十分に感じ取れる。
トランスミッションのレスポンスも速くダイレクトだ。ドライブモードによって変わる軽く心地よい変速でまさにスポーツカーの楽しさを感じる。ただ、低速での変速では軽いショックとノイズが出てトルコンとの差がある。ドライバリティを重視するユーザーにとっては気になるかもしれない。
新しいSLはスポーツカーメーカー、メルセデスAMGの目指す基準を強く感じさせたロードスターだ。そのハンドルを握ればSLKのフットワークの良さとSLのラグジュアリーを併せ持った最新技術に触れることができるに違いない。