試乗レポート

新型「メルセデスAMG SL」、世界初の「エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー」を搭載した4気筒エンジンの仕上がりは?

2+2レイアウトになった新型「メルセデスAMG SL」

2シーターから2+2に

 メルセデス・ベンツに「SL」が継続されたことは喜びだ。言うまでもなくSLは公道を走れるレーシングスポーツとして1952年に発表されたのが始まりだ。1954年に発売された300SLは誰もが憧れたガルウィングドアとユニークな盾形のヘッドライトを採用し、世界の自動車ファンの垂涎の的だった。

 やがて時代の変化と共にメルセデス最高のラグジュアリースポーツとなり、存在感を示している。そのSLが300SL誕生から70周年を迎え、新たにメルセデスAMGの手によるフルモデルチェンジを行なった。すべてを一新しパッケージングもこれまでの2シーターから2+2になった。しかしデザインの流麗さは少しも損なわれておらず、キリリとした精悍なフォルムはむしろ際立っている。

今回試乗したのは10月24日に発売されたラグジュアリーロードスターの新型モデル「メルセデスAMG SL」。新型SLはメルセデスAMGによる完全自社開発モデルとして生まれ変わり、2+2シートレイアウトの「メルセデス AMG SL 43」(1648万円)を展開する。ボディサイズは4700×1915×1370mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm
エクステリアではボンネットのパワードームなど、随所にSLの伝統を受け継ぐ特徴的な要素が施される。足下は20インチAMG5ツインスポークアルミホイールにミシュラン「パイロット スポーツ 4S」(フロント265/40ZR20、リア295/35ZR20)をセット。トランク部に備わるリトラクタブルリアスポイラーは速度に応じて展開し、80~140km/hは6度、140~160km/hは11度、160km/h~最高速度は17度、120km/h~最高速度でダイナミックな走りが検知された場合は22度まで傾けて、最大のダウンフォースを発生させる

 パワートレーンも一新された。今風のエンジンは直列4気筒2.0リッターターボで職人の手で組み上げられた「M139」型エンジンだ。多くの手が入れられているがハイライトはエレクトリック・エキゾーストガス・ターボだ。メルセデスF1由来の技術で、排気タービンと吸気コンプレッサーの間のターボ軸に直結された電気モーターで、モーターの力によってターボチャージャーのレスポンスを上げるものだ。自然吸気以上にアクセルのツキが良くなるシステムだ。

 またアクセルONだけでなくOFF時もブースト圧を維持できるので素早い反応が期待できる。モーターの電源は48Vシステムを使い、お察しの通り第2世代のベルトドリブンスタタージェネレーター(BSG)、すなわちマイルドハイブリットが採用され、発進時の短時間の補助、エンジンのスタート・ストップ機能を極めてスムーズに行なうことができる。エンジンの最高出力は280kW(381PS)/6750rpm。トルクは480Nm/3250-5000rpmとなっており、低回転から大きな出力を出せ、実用的で使いやすいパワーユニットを目指している。

 トランスミッションもひと味違う。AMGスピードシフトとネーミングされている通りレスポンスの速いのが特徴だ。9段ギヤを持ち流体トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを搭載しており、流体の滑らかなつながりよりもスポーツカーらしいダイレクト感と変速の素早さを重視したトランスミッションだ。シフトダウン時にはブリッピングも行ない、まるでMT車のような面白さも楽しめる。また例えばギヤ2段落としのような操作をしても、ダブルクラッチ機能でスムーズに入るので(もちろん許容回転内で)コーナーも楽しくなる。

新型SLでは量産車として世界初となる「エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー」を採用した直列4気筒2.0リッターターボ「M139」型エンジンを搭載。エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーの電気モーターは厚さ約4cmで排気側のタービンホイールと吸気側のコンプレッサーホイールの間のターボチャージャーの軸に直接一体化される。このモーターが電子制御でターボチャージャーの軸を直接駆動し、コンプレッサーホイールを加速。この加速はコンプレッサーホイールが通常のターボチャージャーと同じく、排気の流れによって駆動されるようになるまで行なわれるという。エンジンの最高出力は280kW(381PS)/6750rpm、最大トルクは480Nm(48.9kgfm)/3250-5000rpmを発生し、WLTCモード燃費は10.8km/L。0-100km/h加速は4.9秒、最高速は275km/h

 フレームはアルミの複合素材を使ったスペースフレームで、これ自体の重量は270kgと軽量だ。そしてサスペンションも凝っている。前後5リンクのサスペンションはタイヤの接地形状をコントロールしやすく、メルセデスでも初採用となる。電子制御による可変ショックアブソーバーと軽量スプリングのセットでAMGらしい走り志向のセットアップがなされている。

 ソフトトップは電動で開閉できるのはもちろんだが、上げた状態では機密性が保たれ快適で美しいプロポーションを持っているが、降ろした状態も伸びやかでキリリと引き締まったデザインはすばらしい。

 ただしトップを降した状態だと風の巻き込みがあるのは仕方のないところか。2シーターだと前席直後にウィンドデフレクターを備えることができ、かなりシャットダウンできるが、2+2のSLの場合はリアシートを使わない場合に限ってオプションのウィンドデフレクターを装着することになる。この後席は150cmまでの身長とされているので大人が常用することは無理がある。その代わり、ラゲージスペースはスポーツカーに期待されている以上の使いかっての良さがある。

ルーフについては新型SLがスポーツ性をより重視したポジショニングを与えられたことから、先代の金属製バリオルーフから電動ソフトトップにスイッチ。これにより21kgも軽くなり、合わせて重心も低くなった。開閉は約15秒で完了し、60km/hまでであれば走行中でも開閉可能
インテリアは「R129(1989年~2001年)」以来となる2+2シートレイアウトが復活。100%デジタルのコックピットディスプレイを立体的なバイザーにぴったりとはめ込むなど、アナログ的幾何学フォルムとデジタル技術を融合した「ハイパーアナログ」と呼ばれるデザインを採用。センターコンソールに配置した角度調整式メディアディスプレイにいたるまで、ドライバー重視のデザインとし、300 SLのデザインをオマージュしながらもラグジュアリーで快適な空間を両立したという。なお、リアシートは身長150cmまでと制限がある

SLKのフットワークの良さとSLのラグジュアリーを併せ持つ

 素晴らしいデザインのSLは眺めているだけで心が明るくなるが、走らせるとなおさらだ。

 ドライブモードはスノーに相当するSlipperyとComfort、Sport、Sport+、RACE、Individualの6つのポジションがあり、それぞれでアクセル特性、トランスミッションのレスポンス、ショックアブソーバー、ステアリング、EPSの設定などが変えられるが、サスペンションだけに絞るとComfort、Sport、Sport+の3段階のマップを持っている。

ドライビングモードは燃費を優先する「Comfort」、よりスポーティなドライビングがたのしめる「Sport」「Sport+」「RACE」、滑りやすい路面を安全に走行する「Slippery」、さまざまなパラメーターを個別に設定できる「Individual」の6つのモードを設定

 ドライビングシートは低い位置にあり、スポーツカーらしい安定した姿勢を取れる。視界は近くよりも少し先に目がいくような位置になっており、トレースラインを取りやすい。

 ハンドルの操舵力はメルセデスの中では少し重めになっているが動きは軽快だ。SLはラグジュアリースポーツらしく重厚な味を持つ印象があったが、新しいSLはライトスポーツの「SLK」のフットワークの良さを併せ持っていた。狭い道路でも大きさを感じることのない軽快なハンドリングが感じられる。もう少しペースの速いツイスティなコースからSLは本領を発揮する。ソフトトップを降すと風は後ろから巻き込んでくるが、シートバックからは温風が流れてくるので意外と暖かい。ロードスターならではの風を感じ、音を聞くのはSLの醍醐味だ。

 エンジン音は4気筒らしい少しノイジーな音と共に軽く回る感触だ。やはりマルチシリンダーとは異なる音は時代の流れを感じさせる。エンジン回転は素早く、新しいエレクトリックターボの新鮮な感動は内燃機関の進化はまだまだ奥が深いと感じさせた。アクセルの動きに素早く反応して力強く加速し、上昇するパワーに驚いた。出力そのものも十分、いや1780kgと軽く仕上がった車両重量には十分すぎるパワーを持ち、重厚感よりもメルセデスAMGの目指す軽快でパワフルなロードスター像を十分に感じ取れる。

 トランスミッションのレスポンスも速くダイレクトだ。ドライブモードによって変わる軽く心地よい変速でまさにスポーツカーの楽しさを感じる。ただ、低速での変速では軽いショックとノイズが出てトルコンとの差がある。ドライバリティを重視するユーザーにとっては気になるかもしれない。

 新しいSLはスポーツカーメーカー、メルセデスAMGの目指す基準を強く感じさせたロードスターだ。そのハンドルを握ればSLKのフットワークの良さとSLのラグジュアリーを併せ持った最新技術に触れることができるに違いない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学