ニュース

ボッシュのテストコースで、ASIC制御の自動運転開発車に同乗

2021年に「高速道路での自動運転」の実用化を目指す

2016年9月28日 開催

自動運転(Automated Driving)の機能を搭載した車両

 ボッシュは9月28日、北海道 女満別にある同社テストコースで記者説明会を開催。ボッシュが開発している自動運転のテスト車両を公開した。

 ボッシュは欧州、米国、日本の3拠点で自動運転技術の開発を続けており、とくに日本では左側通行や日本独自の交通状況に合わせた開発を実施。今回の記者説明会ではその開発状況について解説されたほか、実際に開発に使用している車両を利用した体験走行などが行なわれ、実車で自動運転が動作する様子などが公開された。

ドライバーアシスタンスのビジネスは年率30%の成長

 今回の記者説明会と試乗会は、ボッシュが北海道 女満別に所有しているテストコースで行なわれた。ここは1985年に現在の場所に移転するまで女満別空港があったところで、同社に敷地が譲渡されて現在は「ボッシュ 女満別テクニカルセンター」として運営されている。

ボッシュの女満別テクニカルセンター
女満別テストコースのスケールモデル。かつての女満別空港の跡地が転用されている
ボッシュ株式会社 シャシーシステムコントロール事業部長 ルッツ・ヒレボルド氏

 ボッシュ シャシーシステムコントロール事業部長のルッツ・ヒレボルド氏によれば、この女満別のテストコースでは日本の自動車向けにさまざまな技術開発が行なわれており、北海道という立地を生かして冬期試験なども多数行なわれているという。

 ヒレボルド氏は「ドライバーアシスタンスのシステムは年率30%の成長をしており、それは2017年まで続く。ボッシュにおけるその売り上げは、2016年末には10億ユーロに達する見通し。例えば、ドライバーアシスタンスの鍵となる部材であるミリ波レーダー・カメラの売り上げは2013年から2015年にかけて売り上げ高が倍増しており、2016年も続く見通しで、2016年末にはレーダーの出荷台数が1000万台を越えるだろう」と述べ、自動車メーカーにさまざまな部品を供給しているティア1の部品メーカーであるボッシュの製品でも、とくに大きく成長しているのがADAS(先進運転支援システム)や自動運転などに向けたレーダーなどの部品であると強調した。

 また、ボッシュにおける過去のロードセーフティへの取り組みについても説明し、1978年にABS、1980年にエアバッグ、1986年にトラクションコントロールシステムなどを提供してきた歴史を紹介。近年でも2015年に市販車向けとして初めて歩行者も対象とする緊急自動ブレーキシステムなどを導入したことを紹介した。

ドライバーアシスタンスシステムは年率30%の成長を維持。2016年の売り上げは10億ユーロを見込んでいる

 自動運転に関してヒレボルド氏は「2011年にドイツと米国で研究を始め、500人のエンジニアがその開発に関わっている。また、2013年にはドイツと米国で公道でのテストを開始しており、日本では2015年から開始している。自動運転はシステムの自動化によりシステムの複雑化を招く。そうした諸問題を解決するために、今年の2月に日本にシステムエンジニアリングの部門を設立し、日本のお客様と協力して開発を進めている」と述べ、ドイツ本国での技術開発だけでなく、日本でも開発部門を設立して日本の自動車メーカーと協力し、開発を進める体制を構築していると説明した。

ヒレボルド氏のプレゼンテーションで使われたスライド

 引き続き、ボッシュ シャシーシステムコントロール事業部 システム開発 自動運転部 部長の千葉久氏が技術的な詳細を説明した。千葉氏はボッシュが提供している「衝突予知緊急ブレーキ」や「駐車時衝突緊急ブレーキ」といった緊急ブレーキのソリューション、「衝突回避操舵支援(ESS、Evasive Steering Support)」、エアバッグなどのパッシブな安全システムとADASなどを統合する「統合安全システム(ISS、Integrated Safety System)」などを紹介し、今後段階的に自動運転に向かっていくという開発の方向性を説明した。

ボッシュ株式会社 シャシーシステムコントロール事業部 システム開発 自動運転部 部長 千葉久氏
完全な自動運転を実現するまでの道のり

 千葉氏は「今後高度な自動運転を実現するにはさまざまな要素技術が必要になる。さまざまなセンサー、地図データを利用した位置情報、ブレーキやステアリングの操作、さらにはそれらの冗長性、さらにはセキュリティも重要になる。さらにはそうした自動運転車と連動するクラウドサーバーも必要となるが、ボッシュではそれらも自社で開発するなどさまざまな要素技術を開発し、自動車メーカーに提供する準備がある」と述べ、ボッシュが自動運転を実現するためのさまざまな要素技術を開発しており、それらを顧客である自動車メーカーに提供する準備が整っているとアピールした。

千葉氏のプレゼンテーションで使われたスライド

完璧な追い越しを見せた“高速道路での自動運転”を意識する自動運転車両を公開

 今回ボッシュは、自動運転に向けた要素技術を実装する6種類の車両を公開し、報道関係者を乗せて実際に走行して見せた。利用されたのはいずれも市販車をベースにボッシュが改造を施した車両で、市販されている車両そのものではない。

歩行者対応自動緊急ブレーキ(AEB Pedestrian)
歩行者対応自動緊急ブレーキの作動シーン(17秒)

 歩行者対応自動緊急ブレーキは、ミリ波レーダーと単眼カメラを利用して車両前方の障害物を検知。事故の危険がある場合は自動的に緊急ブレーキを作動させて衝突を回避する仕組みだ。今回のデモは停車している車両の死角から歩行者に見立てたパネルが飛び出してくるというテストで、実際に停止するシーンを披露した。

歩行者対応自動緊急ブレーキ(AEB Pedestrian)のテスト車両

 実際に筆者も試乗してみたが、60km/h程度での走行中に歩行者のパネルが急に飛び出してくると、自動でブレーキがかかって歩行者の手前でクルマが停止することを体験できた。ボッシュによれば、歩行者の認識は自車の前方に取り付けられているミリ波レーダーとフロントウィンドウ中央につけられている単眼カメラのデータを画像認識などで処理して、瞬時にブレーキをかけることを決定。自社製の電動ブレーキブースター(iBooster)を活用して停止距離の短縮も実現しているのだという。

 なお、レーダーとカメラを利用した同様の歩行者対応自動緊急ブレーキのシステムは、2015年に発売されたフォルクスワーゲンの「パサート」、アルファ ロメオ「ジュリア」で採用され、すでに公道を走っている。

フロントウィンドウに追加された単眼カメラ
ミリ波レーダーはフロントグリルを加工して設置
単眼カメラとミリ波レーダーが捉えている前方の様子
前方に進んでいくと車両の影から歩行者(パネル)が出てくるというテスト
自動駐車支援(APA)/マルチカメラシステム(3D surround view)
自動駐車支援(APA)とマルチカメラシステム(3D surround view)を装着した車両

 自動駐車支援システム(APA、Automated Parking Assist)は、12チャンネルの超音波センサーを利用した自動的に駐車する仕組みだ。まずは、超音波センサーを利用して、駐車しようとする場所に十分なスペースがあるかを確認する。

自動駐車支援システム(APA、Automated Parking Assist)
マルチカメラシステム(3D surround view)
車両の前後左右で4カ所に、190度という広視野角のカメラを備えている
操作に利用するスマートフォン

 確認できると駐車モードに入るが、このときにドライバーは、スマートフォンやタブレットに表示されているボタンを押し続ける必要があるという。これは、ドライバーの監視下にある場合のみに機能を利用できるという法律の条件をクリアーするため。実際にドライバーがボタンを押している状態のときだけ自動パーキングの仕組みが動作していた。なお、今回のテストはドライバーが車内にいる状態で行なわれたが、ドライバーが外にいても利用できるという。

まずは駐車スペースを確認。発見するとスマートフォンに「P」の表示が左下に出る
自動駐車を行なうには、スマートフォンなどのボタンを押し続けることが必要

 ドライバーがスマホに表示されたボタンを押し続けると、車両が自分でパーキング位置から割り出された軌跡に従ってステアリングやアクセル、ブレーキを操作して駐車作業がスタートする。筆者が同乗したときは、最初の駐車位置がわるかったため切り返しが発生したが、その切り返しの操作も車両が自分で判断して行なっていた。

自動駐車支援システム(APA、Automated Parking Assist)の作動シーン(29秒)

 マルチカメラシステム(3D surround view)も自動駐車支援システムと同じカメラを利用して、自車の周辺360度を監視することができるシステム。それぞれのカメラが190度という広視野角の魚眼レンズを採用しており、4つのカメラだけで360度の状況を監視可能。今回のシステムでは、この4つのカメラに12個の超音波センサーのデータを組み合わせ、自車の周囲をリアルタイムでチェックする仕組みになっていた。また、そのデータを元に自車、および周囲を3Dモデルとして表示できるようにもなっており、スマホで選んだ視点で自車の周辺状態が瞬時に表示されていた。

360度ビューを自車を3Dモデルにして表示できる
表示の視点はスマホで変更可能
両隣にある駐車車両のノーズやリアが表示されている。これは広視野角のカメラを採用しているため
駐車時衝突緊急ブレーキ(MEB)/巻き込み防止緊急ブレーキ(MDW)
駐車時衝突緊急ブレーキ(MEB)/巻き込み防止緊急ブレーキ(MDW)で利用した車両

 駐車時衝突緊急ブレーキ(MEB、Maneuver Emergency Brake)と巻き込み防止緊急ブレーキ(MDW、Maneuver Distance Warning)は、車両に取り付けられた12個の超音波センサーを利用して、10km/h以下の走行時に車両の周囲最大4mの範囲を監視して、衝突の危険がある場合にドライバーに警告。ドライバーが警告を無視した場合にはシステムが自動でブレーキを作動させて停止させるという仕組みだ。超音波センサーで衝突警告を出すというシステムはすでに市販車にも採用されているが、自動でブレーキを作動させるという仕組みが新しい。

前後のバンパーに超音波センサーが12個埋め込まれている
ボッシュの超音波センサー

 テストコースでは置かれている障害物に近づいていくと、ドライバーがブレーキを操作しなくてもシステムが自動的にブレーキを効かせることが体験できた。ユニークなのは、障害物に接近しているときでも現在のステアリング舵角であれば障害物にぶつかるのかぶつからないのかといった予測を演算で求めるようになっており、ぶつらないという場合は障害物が近くなっても自動ブレーキは作動しない。なお、ボッシュによれば同様のシステムはフォルクスワーゲン「ティグアン」などに採用されているとのことだ。

駐車時衝突緊急ブレーキ(MEB)の作動シーン(12秒)
超音波センサーが検知できる範囲
クルマを動かしていくとセンサーの範囲内に障害物が見えてくる。この場合は右前方に障害物を検知している
障害物(車両前方の赤い箱)に近寄っているところ
障害物の直前で自動でブレーキが作動して停止する
衝突回避操舵支援(ESS)
衝突回避操舵支援(ESS)で利用した車両

 衝突回避操舵支援(ESS、Evasive Steering Support)はセンサーとして中距離ミリ波レーダーを利用し、前方に避けるべき障害物がある場合、そこまでの距離を測定。衝突を避けるための回避ルートを演算して求め、ドライバーがステアリングを切るといった回避行動を開始したことをトリガーにして、ドライバーのステアリング操作をアシスト。理想のルートに対してステアリングの切り方が足りないときはステアリングを軽くしてさらなる操作をうながし、逆にステアリングを切りすぎそうな場合にはステアリングのアシストを減らして操作を重くしてサポートする。また、同時に横滑り装置(ESP)の機能を利用してブレーキにも介入し、車両の旋回性のサポートも行なうようになっている。

車両の動きについて表示するモニター
中距離ミリ派レーダーはフロントアンダーグリル内に設定

 実際に試乗してみたが、確かにステアリングが一瞬重くなったり、軽くなったりして、きっちりと理想のラインを走れるように車がアシストしてくれていることを体感できた。なお、ボッシュによれば、同様のシステムは2015年からAudi Q7などに採用されているとのこと。

ESSをON/PFFするスイッチ
ステアリングサポートなどが効いていることが上のグラフで分かる
自動運転(Automated Driving)
自動運転(Automated Driving)の機能を搭載した車両

 今回の目玉となる自動運転の機能は、ボッシュが2021年の実現を計画している「高速道路での自動運転」機能。

 長距離ミリ波レーダー2個、中距離ミリ波レーダー4個、ライダー6個、ステレオビデオカメラ1個、高精度GPS1個といったセンサーを活用して、システムがステアリング、アクセル、ブレーキを操作。高速道路での高度な自動運転を目指した自動運転システムだ。地図は同社が作成した女満別テストコースの高精度マップ(3Dマップ)を利用して、自車位置を特定しながら自動運転を実現している。

自動運転(Automated Driving)の機能解説
車両に配置されたセンサーの位置
長距離ミリ波レーダー
中距離ミリ波レーダー
ステレオビデオカメラ
長距離ミリ波レーダーはフロントグリルのロゴ部分に内蔵
車両前面には長距離ミリ波レーダーのほかにも、ライダーや中距離ミリ波レーダーなどが実装されている
GPSアンテナ
ディスプレイ表示の説明

 システムは、人間の操作が必要な「マニュアルモード」から、準備が整ってステアリングに設置されたスイッチをドライバーが押すことで「自動運転モード」に移行する。自動運転になると、センターコンソールのランプがイエローからグリーンに変わり、ひと目で自動運転になったことが分かるようになっている。これはデモ用の車両で変化が分かりやすくなるようこうなっていると説明された。

「マニュアルモード」の状態ではセンターコンソールのランプがイエローに点灯
準備が整って「自動運転モード」に移行するとランプがグリーンに変わる

 今回は2種類のデモが行なわれた。1つは走行車線を走っているときに、前方に遅いクルマが出てきた場合。追い越し車線に車線変更して、追い越しを完了したあとに再び走行車線に戻るというデモだ。ドライバーは運転席に座っているだけで、ステアリングやアクセル、ブレーキなどを全く操作していないのだが問題なく追い越しが行なわれた。

自動運転(Automated Driving)で前方の車両を追い越すシーン01(33秒)

 もう1つのデモは、同じように走行車線から遅いクルマを追い越し、走行車線に車線に戻るというシーンだが、後方から追い越し車線を走るもう1台のクルマが来て追い抜いていくので、追い抜き車両が通過するのを待ってから追い越しを開始するという内容だ。いずれも動画を見れば分かるように、スムーズに追い越しが行なわれ、人間が運転しているクルマとなにひとつ変わらないと感じるデモとなった。

自動運転(Automated Driving)で前方の車両を追い越すシーン02(57秒)

 なお、ボッシュによれば今回のシステムは、ボッシュが提供する「ASIC」により画像処理やデータ処理などが行なわれており、CPUやGPUといった汎用プロセッサを搭載したSoCなどは採用されていないという。これについてボッシュのヒレボルド氏は「今回公開した高速道路での自動パイロットに関しては、ASICで十分に実現できる」と語り、汎用のGPU/CPUなどは必要ないというのがボッシュの認識だとコメントしている。

 ただその先に、例えば市街地での走行といったさらに高度な自動運転を実現していくには、CPU/GPUを搭載したSoCなどの採用によるAI実装も含めて別途検討していく可能性があるとしたが、現時点では未定とのことだった。

統合安全システム(ISS)
統合安全システム(ISS)の車両

 統合安全システム(ISS、Integrated Safety System)は、従来から車両に搭載されているシートベルトやエアバッグなどのパッシブセーフティ装備と、ADASのような新しいアクティブセーフティを組み合わせて実現する新しい形の乗員保護の仕組み。

ISSの機能解説
超音波センサーなどを搭載している

 具体的には、ステアリングコラムの上に設置されたカメラを利用してドライバーを判別し、あらかじめ登録してあるドライバーの身長や体重といった情報に合わせ、エアバッグやシートベルトの最適なパラメーターを設定する。例えばエアバッグが動作したとき、ドライバーの体格に合わせた大きさで膨らむように調整することで、エアバッグが膨らみすぎてドライバーに怪我を負わせたりすることを防ぐ。また、事故が起きたときは自動でコールセンターや救急などに緊急通報を行なう様子なども合わせて紹介された。

ステアリングコラム上部に搭載されているカメラ
カメラ画像で座ったドライバーを自動認識
ISSのデモ概要
事故が発生すると自動的にコールセンターに電話をする