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【MOVIN'ON 2019】「私の使命はミシュランを時代に合わせて進化させること」。ミシュラン新CEOメネゴー氏に聞く

モビリティの「変化」の中でミシュランが目指すものとは

2019年6月4日~6日 (現地時間)開催

フロラン・メネゴー(Florent Menegaux)CEO

 ミシュランは6月4日~6日(現地時間)、カナダ・モントリオールで持続可能なモビリティに関するサミット「Movin'On 2019」を開催。同会場において、新たにミシュランのCEOに就任したフロラン・メネゴー(Florent Menegaux)氏にインタビューする機会を得た。

 前CEOのジャン・ドミニク・スナール(Jean-Dominique Senard)氏に代わり、新たにミシュランを率いていくメネゴー氏とともに、執行副社長 スコット・クラーク(Scott Clark)氏と執行副社長 セルジュ・ラフォン(Serve Lafon)氏にも話を聞くことができたのでここにお伝えする。


──スナール前CEOの功績についての総括をお聞かせください。その上で、新CEOとして、これまでの経営方針で変えるものと変えないもの、新たに取り組みたい方向性があれば、それについてお聞かせください。

メネゴー氏:ミシュランが130年にわたり存続できた理由は、時代に合わせて変わってきたからです。前CEOも、在任中に多くの変革を行ないました。私の重要な使命も、ミシュランを時代に合わせて進化させることです。ミシュランが次の100年も社会に貢献する企業として存続するために、「変化」がキーワードだと考えています。

──MaaSなどの新しい動きは、クルマが減り、タイヤが減ることになりませんか? ミシュランはこの業界でビジネスが減ることに脅威を感じていないのでしょうか?

メネゴー氏:ミシュランは、市場を失うことを恐れて物事を考える会社ではありません。今までも、新しい技術で常に新しい市場を作ってきました。1949年に世界で初めて投入したラジアルタイヤがそれを物語っています。今回発表したエアレスタイヤの「ミシュラン アプティス・プロトタイプ」も、「More Mobility, Less Impact (モビリティの向上、環境負荷の軽減)」を求める新しい時代に必要だからこそ、投入を決定しました。

 メネゴー氏が語った、モビリティの世界に訪れている「変化」の中でミシュランが目指すものは何か、続いて聞いた副社長の話によって明らかとなった。

サービス・ソリューションビジネスの強化が戦略の柱。執行副社長 スコット・クラーク氏

乗用車・商用車ビジネス、モータースポーツ、エクスペリエンス事業部とアメリカリージョンを統括する執行副社長 スコット・クラーク(Scott Clark)氏

 乗用車・商用車ビジネス、モータースポーツ、エクスペリエンス事業部とアメリカリージョンを統括する執行副社長 スコット・クラーク氏に、現状の認識と新たな領域における取り組みについて聞いた。

──北米において、ミシュランはどのようなブランドとして捉えられていますか?

クラーク氏:第1に、ミシュランブランドは非常に高い信頼性を持つと評価していただいています。特に、タイヤの摩耗に関しては「長く続く安心感」に定評があります。北米のユーザーは、ほかの国に比べて長時間運転をする傾向にあり、その背景から長持ちするタイヤが価値があると捉えられています。つまり、ミシュランタイヤの優位性は、「高い信頼性、長く続く安心感」にあります。ミシュランは、タイヤをバイアスからラジアルに変えた先駆者でもあり、⽶国におけるミシュランは、ほかのタイヤメーカーとはひと味違うという印象を持っていただいています。

──北米におけるミシュランの(環境対応、CASEなど新しい領域)取り組みや、Uberやテスラをはじめとするモビリティ領域に登場した新しいプレーヤーに対して、ミシュランはどのように関わっていくのか、あるいはできることなど、その考えについて聞かせてください。

クラーク氏:ミシュランの経営戦略上、新しいサービス・ソリューションビジネスの強化は⼤きな柱です。B2Bの商⽤⾞用において、タイヤの効率性が顧客の利益率を上げ、満足度の向上につながります。すでにミシュランは⼤型商⽤⾞の経験を⼗分に積んでおり、Uberなどの新興事業にもソリューションを提供できます。テスラとも、すでに深い技術協⼒のパートナー関係にあります。EVのタイヤは酷使されることが想定されるため、⻑く使うことができる効率的で信頼性の⾼いミシュランタイヤはメリットが⼤きいのです。どちらの動きも、ミシュランにとっては脅威ではなく好機であると考えています。

ミシュランが目指すのは「More mobility, less impact」。執行副社長 セルジュ・ラフォン氏

ミシュラングループ 執行副社長 セルジュ・ラフォン(Serge LAFON) 氏

 クラーク氏と同様に、モビリティ領域の新しいプレーヤーとの取り組みについて、B2Bを中心とする特殊機械を担当するほか、アフリカ、インド、中東、中国、東アジアおよびオーストラリアリージョンを統括するミシュラングループ 執行副社長 セルジュ・ラフォン氏にも聞いた。

ラフォン氏:これからどんな世界になるとしても、ミシュランが目指す「More Mobility, Less Impact(モビリティの向上、環境負荷の軽減)」は変わりません。以前、テスラから「(他の会社のタイヤが)2か月で摩耗してしまった」という相談を受けました。2か月で使い物にならなくなるタイヤは、ユーザーを幸せにしません。テスラはミシュランタイヤをテストし、耐久性やそのほかさまざまなチェックを終え、ミシュランタイヤを注文するようになりました。EV(電気自動車)は一般的に車両が重いため、適切な材料を検証し、改善を続け、長く続く安心感を持てるタイヤを提供する必要があります。新しい技術と共に、新しいモビリティの形も刻々と変化するのは当然で、ミシュランはその進化にフルコミットする覚悟です。

──新しいモビリティの形は脅威ですか? 新たな市場となるチャンスですか?

ラフォン氏:ミシュランの将来は、いかに市場に合った正しいソリューションをお客さまに提供できるかに掛かっています。市場の脅威が何か、好機が何かを検討し、好機には検証を積み重ねてソリューションを展開します。それには、お客さまやパートナーとの協業が大変重要です。モビリティの進化を支えるものとして、共に市場のニーズを明確にし、課題を洗い出し、真にお客さまに喜んでいただけるタイヤやソリューションの提供を目指します。

ミシュランが考える持続可能性と経済性の共存

Movin'Onのオープニングイベントでミシュランの将来的なビジョンを示すタイヤ「MICHELIN VISIONARY CONCEPT」を紹介するフロラン・メネゴーCEO

 ミシュランが主催するMovin'Onは、学術、政治、ビジネス界から5000人を超えるリーダーが集まるサミット。持続可能なモビリティのある社会を実現するために必要な課題、ビジネスチャンス、最先端の解決策を模索しながら、各人が行動に移そうというイベントとなる。ラフォン氏からは、Movin'Onで目指す社会についての話も聞けた。

ラフォン氏:ミシュランは、持続可能性と経済性は相反しないと考えています。たとえば、商用タイヤにおいては、燃費を抑えられるタイヤはその会社の運用コストを抑えることができ、経済性に繋がります。

Movin'Onのオープニングイベントでは「ジェネレーションY」と呼ばれる世代が集まり、Movin'Onで探求を続ける「脱炭素と大気の質」「多様な都市交通と社会」「革新的な技術」「商品輸送とマルチモダリティ」「循環経済」といった5つの主要テーマを示した

ラフォン氏:農家を例にとると、彼らの大きな悩みの1つは土壌圧縮(ソイルコンパクション)です。土壌が固くなると種がうまく育たず、収穫が減ります。土壌が固くならないタイヤを提案できれば、収穫が増えて農家の収入が上がるのです。また、コストを抑えながらモビリティの性能を向上できれば、顧客の経済性も上がります。これが、ミシュランが考える持続可能性と経済性の共存です。エコ・フレンドリーと適正な価格は共存しないと思われがちですが、決してそうではありません。ミシュランは、持続可能なモビリティという社会を本気で実現したいと考えています。環境に優しいスマートソリューションを本気で実現するためには、調査・研究・開発への大規模投資や、市場を見つけ育てる努力、そして時間が必要です。ミシュランはこの分野にコミットし、環境や人のための長期的なゴールを考えています。

建築家のKotchakorn Voraakhom氏は、故郷のタイ・バンコクで直面していた雨に関連する問題についてプレゼンテーションを行なった
オープニングイベントにはモントリオール市長 ヴァレリー・プラント氏も登壇した

ラフォン氏:今までの経験から、このスキームがB2Bに展開できることが分かっています。Movin’Onサミットで世界中の有識者と議論し、お客さまのニーズとそれに対するソリューションの理解をもっと深めていきたいと思います。環境に優しいがコストが高くつくソリューションは長続きしません。環境に優しく、かつ経済性の高いソリューションを提供できるよう、燃費や長持ち性能を包括的に考え、提案していきます。

「Movin'On 2019」の会場

 クルマを所有するモビリティから、自動運転車やライドシェアを利用しようという新しいモビリティの形が誕生して変化を続けるモビリティの世界。人々の移動する自由を持続可能なものにするために、その実現可能性についてミシュランのトップたちそれぞれが真剣に考えていることを感じた。