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JAF、チャイルドシートの使用推奨目安を身長「150cm未満」に引き上げた理由を解説 重要なポイントは“ベルトの位置”
2024年9月17日 12:34
- 2024年9月12日 実施
これまでの身長140cm未満から150cm未満へと変更
JAF(日本自動車連盟)は9月12日、車内の子供の安全をさらに高めるため、学童用チャイルドシート(ジュニアシート)の使用推奨目安を身長140cm未満から「150cm未満」へと変更したことについて説明会を実施した。
説明会に先駆け、JAF本部 交通環境部の柴田年輝部長は、「チャイルドシートは車内の子供の安全を守る唯一の方法だと考えています。ところが、今年警察庁とJAFが合同で行なったチャイルドシートの調査結果では、チャイルドシートを使っている人は7割強、そして年齢が上がるにつれて利用率が下がっていて、この傾向は依然続いている。また、チャイルドシートの取り付けに関しては、正しく取り付けられていたのはおよそ7割で、3割は何らかの問題で正しく取り付けられていませんでした。さらに、チャイルドシート使用児の4割強が正しく着座できておらず、着座状況についても課題があるということが分かっています」と現状を説明。
続けて、「チャイルドシートは適正に装着したうえで、正しく着座しなければ、重大な事故につながりかねません。法律による使用義務の年齢は6歳未満となっていますが、6歳以上であっても体格によってはシートベルトが正しく機能せず、十分な効果を発揮できない場合があります。体格に合ったチャイルドシートを適切に使用していただきたいと私どもは考え、引き続き車内における子供の安全を啓発するために、適正なチャイルドシートの使用に関する啓発活動を積極的に進めてまいります」と結んだ。
続いてJAF本部 交通環境部の調査研究課で主管を務める丹野氏が、9月6日に公開した2024年度のチャイルドシート使用状況全国調査の結果を紹介。調査は2006年から実施していて(コロナ禍の2020年と2021年は除く)、全体平均は調査を開始した2006年の49.4%から78.2%と右肩上がりに増加しているものの、内訳は1歳未満は91.7%、1歳~4歳は80.7%、5歳は57.9%と、調査開始当初から変わらず5歳児の使用率が低い状況が浮き彫りとなった。
その原因について丹野氏は、「5歳になると自我が芽生えてくること、体格が大きくなること、シートベルトを自分で外せてしまうことなどを挙げたほか、チャイルドシートの使用推奨目安がメーカーや団体によって135cm~150cmの間でバラつきがあることも要因の1つだと考えている」と説明。
また、2008年に後部座席のシートベルト着用が義務付けられたことで、6歳を過ぎて法律的にはチャイルドシートを卒業しても、後席に乗る際はシートベルトは着用しなければならない。しかし、自動車のシートベルトが正しく機能するのは身長150cm以上が目安。後席のシートベルトは前席と違い高さ調整機能を備えているものがほぼなく、6歳以上でも身長が150cmに満たない場合は、シートベルトの肩ベルトや腰ベルトが正しい位置にかからず、大きな衝撃を受けると首や内臓を損傷する危険性があるという。
こういった背景を受けてJAFは、チャイルドシート(ジュニアシート)の使用推奨目安をこれまでの身長140cm未満から「150cm未満」へと引き上げることを決定。また、法律で定めている6歳未満のチャイルドシート使用義務についても、「年齢で判断するのではなく、シートベルトが首や腹部にかからないように正しく着用できるているかで判断してほしい。また、車種によってシートベルトやチャイルドシートの装着状況は変化するので、子供に任せるのではなく大人が毎回ちゃんと装着状態を確認してください」と語気を強めた。
続けて丹野氏は、新たに制作したユーザーテスト動画を公開。テスト内容は、55km/hで衝突テストを行ない、衝突時のダミー人形の挙動やHIC値(頭部障害基準値)を測定するもので、チャイルドシート不使用時とチャイルドシート使用時のダメージの違いを検証した。
チャイルドシート不使用時の場合、後席に搭乗していた3歳と6歳のダミー人形の頭部には、頭部に重大な損傷が発生する可能性があるという基準値1000を超えた。チャイルドシートを正しく使用していた場合は、もちろん無傷では済まないであろうものの、シートから投げ出されて、頭部が前席や天井など車内の硬い部分に激突することはなかった。
肩ベルトは鎖骨のあたり、腰ベルトは腰骨のあたりに
説明会ではさらに実車を使い、身長140cm、145cm、150cmの子供が、チャイルドシート不使用時と使用時におけるシートベルトとの位置関係を検証した。
140cmの児童の場合、チャイルドシートを使用しないと、肩ベルトが完全に首にかかっていて危険な状態であることが分かる。腰も深く座れておらず、腰ベルトがお腹のあたりに位置していてこれも危険な状態。チャイルドシートを使用すると、座面が高くなって肩ベルトが正しい鎖骨のあたりの位置になったほか、腰ベルトも腰骨にしっかりとかかって安全な体勢になった。また、チャイルドシートを使用することで視点が高くなり、遠くが見えるようになるため、クルマ酔いもしにくくなるという。
145cmの児童の場合、チャイルドシート未使用だと、やはりまだ肩ベルトが首のあたりにかかっていて、少しでも斜めに力が入れば大きなダメージを受ける可能性が高い。また腰ベルトも若干お腹にかかっていて危険な状態。チャイルドシートを使用すればともに解消されるが、ちょっと肩幅が狭く、窮屈感が否めない。この場合は背もたれのないジュニアシートか、チャイルドシートの背もたれを外したブースターシートを利用すれば、肩ベルトも腰ベルトも正しい位置になり、リラックスした状態で乗車できるようになる。
150cmの児童の場合、チャイルドシートを使わなくても、きちんと着座しているように見えるが、子供はまだ骨格が未発達なため安心は禁物。ジュニアシートまたはブースターシートを使用することで、肩ベルトと腰ベルトをしっかりと正しい位置に導いておきたい。
なお、今回のチャイルドシート使用推奨目安の150cmへの引き上げは、シートメーカーや団体などに統一を強制・強要するものではなく、あくまでJAFの独自見解という位置づけ。また、大人でも150cm以下ならジュニアシートやブースターシートを使ったほうがいいのか? という問い合わせもあるというが、丹野氏は「大人は子供よりも骨格が丈夫であり、自分で安全かどうかを判断できる。今回の使用推奨目安はあくまで子供の安全を守るためのものです」と説明。
また、高速道路だけでなく一般道でも後席でのチャイルドシート使用について、飲酒運転のように違反した場合の罰則を厳しくすれば、もっと装着率は上がるようにも思うが、現状では国交省への意見具申は考えていないという。
最後に丹野氏は、「一般道での後席シートベルトの着用は法律で義務化されていますが、装着していない家庭も少なくないと思います。ちょっとそこのコンビニまでだから……といった考えで、もし万が一事故が起きてしまえば、取り返しのつかない事態になってしまうかもしれません。たとえ子供がジュニアシートやブースターシートの使用を嫌がっても、安全を最優先して、きちんと使用して正しく着座させてください。これは保護者の義務です」とチャイルドシートやジュニアシートの正しい装着と使用を訴えた。
JAFが行なっているさまざまな安全活動
JAFは1963年2月に設立され、交通安全活動、自動車に関わる環境改善活動、故障車・事故車などの救援および移動、道路巡回(ロードサービス)、交通法規・税制・保険などに関する調査研究、意見具申、陳情など、災害時・非常時における奉仕活動、モータースポーツの統括や普及振興に関する業務、施設・団体などとの連携による諸サービスの提供(会員サービス)などが主な事業内容。2024年6月末時点で2053万1949人が会員に登録している。
また、ジャパンモビリティショーなどの自動車イベントをはじめ、ショッピングモールなどのイベントにも出展し、子供からシニアまで楽しく学べる交通安全イベントも実施。5km/hの衝突体験ができる「シートベルト効果体験車(シートベルトコンビンサー)」なども用意している。
チャイルドシートも進化している
チャイルドシートは2023年9月に安全基準が「R44」から「R129」へと刷新され、後ろ向きでの使用が12か月から15か月にのびたほか、使用条件の基準を体重から身長へと変更された。さらに、衝突試験も前後だけでなく側面衝突試験も追加されるなど、安全基準が大幅に高められている。
利用者は新基準の製品に買い替える必要はないが、今後発売される新製品はすべて「R129」基準を満たした製品となっていく。これから購入を検討しているのであれば、ぜひチェックしてほしい。