試乗記
日産「GT-R NISMO(2024年モデル)」試乗 “史上最高のトラクションマスター”の仕上がりに脱帽
2023年9月12日 11:47
GT-R NISMO(24MY)の進化点
ベースモデルが登場して16年、NISMO仕様が登場して10年の時が経過したGT-R。22MY(2022モデルイヤー)で終了だと噂されていたGT-Rが、新たなエクステリアを身にまとい24MYとして登場した。以前、そのグランツーリスモ仕様の最強バージョンであるT-SPECをご紹介したが、今回はレーシングテクノロジーが満載されたNISMOに試乗する。
R35史上最高のトラクションマスターと謳われる24MY NISMO。それをまず象徴しているのがエアロパーツの数々だ。グリル上のノーズは低く構えられ、インテークへ向けたスロープは角度をつけられた上で低く改められたことが特徴的。結果としてナンバープレートの位置も低くなっている。また、リップスポイラーセンターのエア・スプリッターは断面形状を最適化。車体下部へと導く面積がやや横に広がった。また、バンパーコーナー部はエアガイドが横長になり、バンパーコーナー部で車体から空気を剥離させないスムーズな流れを実現しているという。
一方でテールエンドもかなり変化した。トランクリッド後部とボディサイドにはセパレーションエッジが派手に延長され、ボディ後面に巻き込む風を最小化。ウイングは外側と内側で高さと断面が異なる翼を採用したほか、スワンネックタイプのステーを採用することで、ウイング裏面を最大活用することに成功している。これらのデザイン変更により、13%もダウンフォースを増加させている。
改良を施したのはエアロだけではない。シャシーもこれまでとはかなり違う。まず特徴的なのがフロントにメカニカルLSDを組み込んだことだ。かつてNISMOのチューニングパーツでその設定はあったが、ついにカタログモデルに搭載されたことは驚きだ。ドライブ側とコースト側でカム角を変更し、コーナー進入のブレーキング時にはハンドリングを邪魔しないように設定。どちらかといえば1WAY LSDに近い設定のようだ。さらに4WD制御も変更。フロントへのイニシャルトルクを低減することで回頭性をアップ。高Gで旋回する時にはフロントのトルクをアップさせるようにセットしている。LSDとのマッチングを考えてのことなのだろう。
さらに電子制御サスペンションのGセンサー性能を向上させたところもポイント。高周波感度の向上により、微小な変化も捉えることが可能になったことから、挙動変化をより早く捉えて最適な減衰力に切り替えることが可能となり、車体が落ち着き意のままに操りやすくなるという。
R35の最終章にふさわしいモデル
さて、そんな24MYのGT-Rに乗り込んでみると、シートもまた進化していた。CFRP製のシートバックシェルは閉断面化されることで剛性が向上し、上半身のホールド性をより高めている。パッド硬度を部位ごとにチューニングしていることから、見た目ほどの硬さはなく、適度にサポートされているところが特徴的。シートクッションも改められ、しっかりと腰がサポートされるようになっているが、乗降性がさほど損なわれていないあたりはさすがカタログモデルの市販車だ。
まずはサスペンションもトランスミッションもノーマルモードで走らせてみると、これがNISMO仕様なのかと疑うほどにフラットに走っていくから感心する。カーボンセラミックブレーキを採用し、バネ下が軽減されているからT-SPECでも同じような感覚があるが、それより引き締められている足まわりを採用している割には乗り心地もわるくなっていない。サスペンションの設定をコンフォートモードにしてしまえば、日常のタウンスピードでも不満を抱くようなことはない。サーキットに照準を合わせているにも関わらず、日常も十分に許容する懐の深さがある。ワインディングの荒れた路面を通過してみても、タイヤが路面に追従していく感覚は22MYよりも明らかに上であることが理解できる。
サスペンションもトランスミッションもRモードに入れてペースを上げていくと、さらにNISMOは本領を発揮していく。ダウンフォースが増したせいかコーナリングの安定感はさらに向上。リアのサスペンションがきちんと伸びて路面を捉え続けている感覚がある。けれども素直な旋回性能も与えられているところはさすが。ライトウエイトスポーツにでも乗っているかのように軽快。跳ねてしまってRモードが公道で使えないなんてことはない。程よい引き締めは好感触だ。
また、タイトターンではアクセルONとともにフロントがさらに入っていく感覚も得られている。以前乗ったフロントLSDを組んだNISMOのN Attack Packageのように派手なLSDの効きは感じないが、違和感を覚えずにマイルドに旋回性を加えたあたりは、どんな人も受け入れられる程よいバランスかもしれない。ダウンフォースや足まわりの事実上の進化により安定しきったところを、4WD制御やLSDによって曲げる性能を補ったようにも感じてくる。
車外騒音規制への対応を考えて改められたマフラーは重低音がカットされ、対してジェットサウンドジェネレータが与えられたことで爽快な高音が得られるようになったことも特徴の1つだ。Rモードに入れればバブリングも味わえてしまうし、車内のスピーカーで音が増幅されているからもの足りなさは感じない。ノーマルモードにすれば瞬時に静かになり、日常域を平和に過ごせるようになったこともまたうれしいポイントだ。
レーシングテクノロジーが満載と謳われてはいるが、あくまでもストリートカーであることを忘れず、マナーよく仕立てられた今度のGT-R NISMO。これぞ熟成に熟成を重ねたR35の最終章にふさわしいモデルといえる。価格も数もなかなか買えるようなクルマではなくなってしまったことは残念だが、やり切った感が伝わってきた仕上がりには脱帽するしかない。