試乗記

日産「GT-R NISMO(2024年モデル)」試乗 “史上最高のトラクションマスター”の仕上がりに脱帽

GT-R NISMO Special edition(24MY)

GT-R NISMO(24MY)の進化点

 ベースモデルが登場して16年、NISMO仕様が登場して10年の時が経過したGT-R。22MY(2022モデルイヤー)で終了だと噂されていたGT-Rが、新たなエクステリアを身にまとい24MYとして登場した。以前、そのグランツーリスモ仕様の最強バージョンであるT-SPECをご紹介したが、今回はレーシングテクノロジーが満載されたNISMOに試乗する。

 R35史上最高のトラクションマスターと謳われる24MY NISMO。それをまず象徴しているのがエアロパーツの数々だ。グリル上のノーズは低く構えられ、インテークへ向けたスロープは角度をつけられた上で低く改められたことが特徴的。結果としてナンバープレートの位置も低くなっている。また、リップスポイラーセンターのエア・スプリッターは断面形状を最適化。車体下部へと導く面積がやや横に広がった。また、バンパーコーナー部はエアガイドが横長になり、バンパーコーナー部で車体から空気を剥離させないスムーズな流れを実現しているという。

 一方でテールエンドもかなり変化した。トランクリッド後部とボディサイドにはセパレーションエッジが派手に延長され、ボディ後面に巻き込む風を最小化。ウイングは外側と内側で高さと断面が異なる翼を採用したほか、スワンネックタイプのステーを採用することで、ウイング裏面を最大活用することに成功している。これらのデザイン変更により、13%もダウンフォースを増加させている。

今回試乗したのは2023年4月に発売された「GT-R」2024年モデルのうち、高精度重量バランスエンジン部品、クリア塗装のNISMO専用カーボン製エンジンフード(NACAダクト付)、専用レイズ製アルミ鍛造ホイール(レッドリム加飾)、アルミ製ネームプレート(専用カラー)などを採用した「GT-R NISMO Special edition」(2915万円)
GT-R NISMO Special editionのボディサイズは4700×1895×1370mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2780mm。車両重量は2024年モデルの「Premium edition T-spec」(1896万700円)から40kg軽い1720kg
NISMO専用サスペンションが与えられるほか、20インチのレイズ製アルミ鍛造ホイールやダンロップ「SP SPORT MAXX GT 600 DSST」(フロント255/40ZRF20、リア 285/35ZRF20)、カーボンセラミックブレーキなども専用品。また、旋回性能を高めるフロントメカニカルLSDを標準装備したのもトピックの1つ
エクステリアではカーボン製ルーフ、カーボン製エンジンフード、カーボン製フロントフェンダーなどを採用して軽量化を図った。また新デザインのリアウイングを高い位置にセットするなど、空力性能の向上にも抜かりなし。マフラーはFUJITSUBOのチタン合金製
GT-R NISMO Special editionにのみ与えられる高精度重量バランスエンジン部品はピストンリング、コンロッド、クランクシャフト、フライホイール、クランクプーリー、バルブスプリング(吸気)、バルブスプリング(排気)で構成される。V型6気筒DOHC 3.8リッターツインターボ「VR38DETT」型エンジンは最高出力441kW(600PS)/6800rpm、最大トルク652Nm(66.5kgfm)/3600-5600rpmを発生

 改良を施したのはエアロだけではない。シャシーもこれまでとはかなり違う。まず特徴的なのがフロントにメカニカルLSDを組み込んだことだ。かつてNISMOのチューニングパーツでその設定はあったが、ついにカタログモデルに搭載されたことは驚きだ。ドライブ側とコースト側でカム角を変更し、コーナー進入のブレーキング時にはハンドリングを邪魔しないように設定。どちらかといえば1WAY LSDに近い設定のようだ。さらに4WD制御も変更。フロントへのイニシャルトルクを低減することで回頭性をアップ。高Gで旋回する時にはフロントのトルクをアップさせるようにセットしている。LSDとのマッチングを考えてのことなのだろう。

 さらに電子制御サスペンションのGセンサー性能を向上させたところもポイント。高周波感度の向上により、微小な変化も捉えることが可能になったことから、挙動変化をより早く捉えて最適な減衰力に切り替えることが可能となり、車体が落ち着き意のままに操りやすくなるという。

GT-R NISMO Special editionのコクピット。2024年モデルのレカロ製カーボンバックバケットシートはフレームを閉断面化したことで剛性を高めることに成功。カーボン調コンビメーターやアルカンターラ巻きステアリングなども採用する

R35の最終章にふさわしいモデル

 さて、そんな24MYのGT-Rに乗り込んでみると、シートもまた進化していた。CFRP製のシートバックシェルは閉断面化されることで剛性が向上し、上半身のホールド性をより高めている。パッド硬度を部位ごとにチューニングしていることから、見た目ほどの硬さはなく、適度にサポートされているところが特徴的。シートクッションも改められ、しっかりと腰がサポートされるようになっているが、乗降性がさほど損なわれていないあたりはさすがカタログモデルの市販車だ。

 まずはサスペンションもトランスミッションもノーマルモードで走らせてみると、これがNISMO仕様なのかと疑うほどにフラットに走っていくから感心する。カーボンセラミックブレーキを採用し、バネ下が軽減されているからT-SPECでも同じような感覚があるが、それより引き締められている足まわりを採用している割には乗り心地もわるくなっていない。サスペンションの設定をコンフォートモードにしてしまえば、日常のタウンスピードでも不満を抱くようなことはない。サーキットに照準を合わせているにも関わらず、日常も十分に許容する懐の深さがある。ワインディングの荒れた路面を通過してみても、タイヤが路面に追従していく感覚は22MYよりも明らかに上であることが理解できる。

 サスペンションもトランスミッションもRモードに入れてペースを上げていくと、さらにNISMOは本領を発揮していく。ダウンフォースが増したせいかコーナリングの安定感はさらに向上。リアのサスペンションがきちんと伸びて路面を捉え続けている感覚がある。けれども素直な旋回性能も与えられているところはさすが。ライトウエイトスポーツにでも乗っているかのように軽快。跳ねてしまってRモードが公道で使えないなんてことはない。程よい引き締めは好感触だ。

 また、タイトターンではアクセルONとともにフロントがさらに入っていく感覚も得られている。以前乗ったフロントLSDを組んだNISMOのN Attack Packageのように派手なLSDの効きは感じないが、違和感を覚えずにマイルドに旋回性を加えたあたりは、どんな人も受け入れられる程よいバランスかもしれない。ダウンフォースや足まわりの事実上の進化により安定しきったところを、4WD制御やLSDによって曲げる性能を補ったようにも感じてくる。

 車外騒音規制への対応を考えて改められたマフラーは重低音がカットされ、対してジェットサウンドジェネレータが与えられたことで爽快な高音が得られるようになったことも特徴の1つだ。Rモードに入れればバブリングも味わえてしまうし、車内のスピーカーで音が増幅されているからもの足りなさは感じない。ノーマルモードにすれば瞬時に静かになり、日常域を平和に過ごせるようになったこともまたうれしいポイントだ。

 レーシングテクノロジーが満載と謳われてはいるが、あくまでもストリートカーであることを忘れず、マナーよく仕立てられた今度のGT-R NISMO。これぞ熟成に熟成を重ねたR35の最終章にふさわしいモデルといえる。価格も数もなかなか買えるようなクルマではなくなってしまったことは残念だが、やり切った感が伝わってきた仕上がりには脱帽するしかない。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛