奥川浩彦の「レースと写真とクルマの話」

第10回:F1シーズン後半戦突入、レッドブル・ホンダ活躍の振り返りとF1日本GPのキャンセル

F1公式サイトのビデオ映像は無料で視聴できる

 F1グランプリは4週間の夏休みが終わり後半戦に突入する。今シーズンの前半戦はレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手が5勝、メルセデスのルイス・ハミルトン選手が4勝とがっぷり四つの接戦となっている。

 1991年、マクラーレン・ホンダ、アイルトン・セナ選手以来、30年ぶりにホンダのチャンピオン獲得が期待されている。今回は「有料放送を契約するほどではないけれどF1のシーズン後半戦を見たい」という人のための情報をお伝えしよう。

地上波でのF1放送がなくなって10年

 筆者は多くの知人からF1について「セナがいたころは見ていた」「地上波で放送されたころは見ていた」と言われた。筆者自身も近年プロ野球を見ることがなくなった。昔はよく見たボクシングのヘビー級の試合もジョージ・フォアマン、モハメド・アリ、ラリー・ホームズ、マイク・タイソンの時代は地上波で放送されたが、有料放送に移行してから見なくなったので、地上波中継の有無が影響するのは仕方ないことだと思っている。

 若い人は想像できないと思うが、昭和の時代はプロ野球の巨人戦がほぼ毎戦全国で放送されていた。延長放送でドラマの録画に失敗する人が多く、ドラマ好きから野球放送は敵視されたりした。Jリーグが開幕したころは、同時に3試合くらいを各局が生中継したこともあった。昔、スポーツ中継は花形コンテンツだった。

 筆者自身、F1は1970年代後半からTBSがシーズン中に放送するダイジェスト版でテレビ観戦をしていた。VHSのビデオデッキを買ったのが1986年で、このころはTBSの夜のニュースで毎戦数十秒の速報が月曜か火曜に流れるのをリモコンを握りしめて録画していた。この年、初開催のハンガリーGPでネルソン・ピケ選手とアイルトン・セナ選手の抜きつ抜かれつの攻防は何度も再生して見た。この攻防の映像をYouTubeのFORMULA 1 公式チャンネルで探してみたのでご覧いただきたい。

Top 10 Moments Of Nelson Piquet Brilliance(15分15秒くらいからネルソン・ピケ選手とアイルトン・セナ選手のシーン)

https://youtu.be/eiS6FnCCqCY

 鈴鹿サーキットでF1日本グランプリが開催されることになった1987年の開幕戦からフジテレビで地上波による全戦放送が始まり、ホンダやセナ選手の活躍もあり日本はF1ブームへ突入する。1990年ごろ、F1日本グランプリのチケットは争奪戦となっていた。

 余談だが筆者は長野オリンピック、日韓ワールドカップ、今回の東京オリンピックのチケットをゲットしたが、個人的入手難易度は1位 日韓ワールドカップ、2位 当時のF1日本グランプリ、3位 東京オリンピック、4位 長野オリンピックだと思っている。

 F1ブームが去り地上波のF1放送は2011年で終了、まもなく10年となる。2015年にBS放送も終了。2016年シーズンの開幕はスカパー!(フジテレビNEXT)のみとなるが、8月のベルギーGPから「DAZN」がF1中継を開始し現在にいたっている。F1観戦も他のスポーツと同様、有料放送が基本だ。

 現在、有料放送以外でかろうじて残っているのがNHK「ワースポ×MLB」だろうか。筆者が昔見ていたTBSニュースと同様、レース翌日の月曜の最後にチラッとダイジェスト版が放送されている。

※注:オリンピック、パラリンピック期間中はワースポ×MLBの放送は行われない

 筆者がスカパー!でF1中継を視聴し始めたのは2002年。今年で20年目となった。現在はメインがフジテレビNEXT、たまにDAZNとなっている。昔はスカパー!でF1中継を見るには衛星アンテナの設置が必須だったが、現在はフジテレビNEXTもDAZNもスマホ、タブレット、PCで視聴できるのでF1観戦のハードルは少し低くなったと思われる。とはいえ有料放送という最大のハードルは残っている。

 時代が変化し、救世主(大袈裟か?)が現れた。ネット配信だ。地上波はもちろん、有料放送でも見ることができない映像が、インターネットを利用して無料配信される時代となった。レース中継に関しては、有料放送と同じものをそのまま見ることはできないが、各セクションのダイジェスト映像、全ドライバーのインタビューなど大量のコンテンツが用意されている。アップロードされるタイミングも早く、アクシデントなどのトピック映像はレース中も随時更新される。

ハンガリーGP、スタートの多重クラッシュの映像は、レース再開後3ラップの時点でアップロードされた

フェルスタッペン対ハミルトン

 映像を紹介する前に今シーズン前半戦のフェルスタッペン選手対ハミルトン選手、レッドブル・ホンダ対メルセデスのポイントの推移を見ておこう。

第11戦までのドライバーズポイント

 ドライバーズポイントはハミルトン選手が195ポイント。フェルスタッペン選手が187ポイントと8ポイント差となっている。フランスGP、シュタイアーマルクGP、オーストリアGPで3連勝したフェルスタッペン選手が32ポイント差を付けたときは、今シーズンはフェルスタッペンの独走かと思われたが、続くイギリスGPでハミルトン選手との接触でリタイア、ハンガリーGPはスタートでボッタス選手がノリス選手に追突し、ノリス選手がフェルスタッペン選手にぶつかり9位となりハミルトン選手に逆転されてしまった。

イギリスGP、1周目にハミルトンと接触しリタイヤするフェルスタッペン

https://youtu.be/oIKel6jVD3Q

ハンガリーGP、ボッタス選手がレッドブル・ホンダ2台をダブルテイクアウト

https://youtu.be/8DuTjXo67ac

 コンストラクターズポイントはメルセデスが303ポイント、レッドブル・ホンダが291ポイントで14ポイント差となっている。こちらもオーストリアGP終了時はレッドブルホンダが44ポイント差を付けていたが、ハンガリーGPで逆転されてしまった。

第11戦までのコンストラクターズポイント

 前半戦を終えてメルセデス、ルイス・ハミルトン選手がリードしているがその差はわずか。後半戦も一進一退、ドキドキする競り合いが続くだろう。「セナがいたころは見ていた」人は、当時テレビの前で感じた緊張感がよみがえるかもしれない。

インターネット配信のF1映像を見る

 現在F1公式映像は「formula1.com」「YouTube FORMULA 1公式チャンネル」で配信されている。formula1.comはサインイン(年間3200円)するとLive Timingでセッション中のラップタイムやマシンのトラックポジションなどフルバージョンを利用できるが、ビデオ映像はサインインしなくても無料で見ることが可能だ。スマホ、タブレットの場合はブラウザでもアプリでも見ることができる。

FORMULA 1 - YouTube

https://www.youtube.com/channel/UCB_qr75-ydFVKSF9Dmo6izg

スマホでformula1、F1などでアプリ検索してインストールしよう

 formula1.comとYouTubeの映像は同じものだ。更新のタイミングはformula1.comがYouTubeより早いかもしれない。ハンガリーGPでブラウザを2つ立ち上げformula1.comとYouTubeを左右に表示し、スクリーンショットを撮ってみた。ブラウザは2分ごとに自動でリロード、スクリーンショットも2分ごとに自動で撮影した。

 予選のハイライト(ダイジェスト版)映像がformula1.comに表示されたのが決勝の21時間49分前(=深夜0:11頃)、同じ映像がYouTubeに表示されたのが決勝の21時間29分前(=深夜0:31頃)で20分ほどformula1.comが早く公開されていた。ただし、YouTubeは筆者のPCの画面に表示された時点で11分前に公開され1.1万回視聴となっているので、実際の差は10分程度だったのか、日本のYouTubeの表示が遅れているのかは不明だ。今か今かと待っている人はすくないと思うので、翌朝に視聴するならどちらを利用しても大差はないだろう。

 新しい映像はトップ画面に並んでいるのですぐに見ることができる。とはいえシーズン初戦から第11戦までのダイジェスト映像を探すのは面倒だろうと考え、一覧にまとめてみた。決勝レースの映像は6~7分にまとめられている。当たり前だが音声は英語となる。言葉が理解できなくても困ることはないと思われるが「今のシーンは何?」となることがあるかもしれない。と言うことでCar Watchに掲載された各戦のレースレポートも一覧に加えてみた。

「地上波で放送されたころは見ていた」という人は是非、筆者のように映像を見て「そうだった、そうだった」と生中継で見たのに忘れがちな人もシーズン後半戦を前に前半戦の激闘を振り返っていただきたい。

F1日本グランプリは中止に、でもF1の情熱や魅力は止まらない

 既報のとおり今年もF1日本グランプリは中止となった。MotoGP日本グランプリの中止が6月に発表され8月にバレンティーノ・ロッシ選手の引退が報じられた直後にF1日本グランプリの悲報が届いた。ロッシ選手のラストイヤーもホンダ(パワーユニット)のラストイヤーも日本のファンは目にすることができなくなった。残念としか言いようがない。

 先日開催されたSUPER GTで鈴鹿サーキットの関係者と立ち話をした。筆者が「中止のリリース文に“やれることは全てやった”という思いが溢れてましたね」というと「心の声がリリースに出ちゃいましたね」と応えてくれた。

鈴鹿サーキットの発表には「やれることは全てやった」という思いが込められてた

 その後開かれた鈴鹿サーキットを運営するモビリティランド 田中薫社長の記者会見でも、多くの疑問に丁寧に答えていただいた。

鈴鹿サーキット 田中薫社長、「F1日本GP中止に関する会見」 最大の要因はF1側のデッドラインまでに関係者の入国の見通しが得られなかったこと

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1345403.html

 中止が告知された日、筆者の元にも「オリンピックができてなぜF1ができない」というコメントが届いた。SNS上でも同様な意見が見られた。確かに理不尽、納得がいかないと思う人は多いだろう。だが筆者のようなジジイは「世の中には理不尽なことはいくらでもある」と感じている。

 企業が業績が落ち「社員は接待交際費を使っちゃダメ」となっても「社長は接待交際費OK」みたいなことは、世の中にくらでもありそうな話で、「民間企業のイベントは外人ダメ、政府(東京都)がやるオリンピックはOK」ということは、納得はできないが仕方ないことだと思っている。

 筆者は1987年から2019年まで皆勤賞でF1日本グランプリを観戦してきた。ホンダラストイヤーという特別な日本グランプリだったので落胆も大きい。だが、心の何処かに「またホンダが戻って来るかもしれない」という思いもあるし、そもそも年間約20戦はテレビ観戦で、生観戦できる日本グランプリが中止になってもF1の魅力、F1の情熱、F1の感動は変わらないし、これからもずっと続くと確信している。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。