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【インタビュー】新型「812 SuperFast」とフェラーリについて極東・中東エリア統括 CEOのディーター・クネヒテル氏に聞く

自動運転やEV、SUVモデルの可能性は?

2017年5月23日 開催

インタビューに応じたフェラーリ極東・中東エリア統括CEO ディーター・クネヒテル氏(右)と、フェラーリ・ジャパン・コリアの代表取締役社長 リノ・デパオリ氏(左)

 フェラーリ・ジャパンは5月23日、都内で新型「812 SuperFast」のジャパンプレミアを開催。この発表会の模様は関連記事で紹介しているが、この発表会にはフェラーリ極東・中東エリア統括CEO ディーター・クネヒテル氏と、フェラーリ・ジャパン・コリアの代表取締役社長 リノ・デパオリ氏が出席。その後、集まった報道陣とのグループインタビューが実施されたので、本稿ではその模様を紹介する。

新型「812 SuperFast」

会場に入りきらないほどの報道陣が詰めかけたグループインタビュー

――クネヒテルさんとデパオリさんに伺います。フェラーリにとって日本マーケットはどのような印象でしょうか。また、クネヒテルさんはアジア、中東など広い地域を担当されていますが、それらの地域と比べて日本の市場はどういった違いがあるでしょうか。

クネヒテル氏:私どもフェラーリにとりまして、日本市場は非常に重要であります。1966年以来、私どもは50年に渡り日本市場で事業を展開しているということから、フェラーリが非常に強力に日本のことを考えていることがお分かりいただけるかと思います。そして、日本のお客様はレーシングというカルチャーを十分ご理解していただいていますし、ヨーロッパのテクノロジーへの感心が非常に高い。そういったことから、今後もフェラーリにとって日本は非常に可能性のある市場であると思っております。

 ほかの市場との比較ですが、たしかにカルチャー的には国ごとに違った面はありますが、共通点もあります。それはフェラーリユーザーのパッションです。日本には長期に渡って私どもの商品をご愛好いただいているお客様が大勢いらっしゃいます。このようにフェラーリにとって強固な基盤がある日本は、これからも成長していけるものと考えています。

質問に回答するクネヒテル氏。フェラーリにとって日本市場は50年前から事業を展開している国ということで、非常に重要視しているとのこと

――812 SuperFastはV12の大排気量エンジンを搭載していますが、フェラーリがV12気筒にこだわる理由を教えて下さい。

クネヒテル氏:フェラーリは12気筒のスポーツカーを作り続けている伝統があります。最初にV12エンジンを搭載したモデルの登場からは70年が経つほどです。今日お見せした812 SuperFastにもV12エンジンの搭載を堅持しているということからも分かるように、私どものブランドにとってV12エンジンというのは非常に重要なものなのです。

812 SuperFastが搭載するV型12気筒6.5リッター自然吸気エンジン

――クネヒテルさんはポルシェにも在籍していた経歴をお持ちですが、ポルシェとフェラーリの会社、社風の違いというのはどのようなところですか。

クネヒテル氏:まず共通点ですが、双方のブランドともにヘリテージを持つレーシングブランドであることが言えます。違いとしては、フェラーリはポルシェに比べると非常に小規模な会社です。それだけに、人と人の兼ね合いによる効果が最大限に発揮できる環境です。本拠地であるマラネッロも小規模の工場なので、いろいろな分野で働く皆さんがそれぞれ顔を知り合っているというところもあります。また、マーケティングはポルシェよりもエクスクルーシブであり、生産台数も限られているという違いもあります。ですからポルシェと比較するというものではないかなと思います。

――自動運転とEV(電気自動車)、それにSUVについてフェラーリの考えを聞かせて下さい。

クネヒテル氏:これはよく聞かれる質問です。私どもとしては、完全自動運転であるとか完全なEVは「お客様が求めていない」というところから、これらに関する計画はありません。ただ、リサーチは必要なことなので研究は重ねているという状況です。また、SUVはフェラーリのDNAとマッチしていないということから現在計画がありません。

自動運転やEV、そしてSUVについてはよく聞かれることだが、フェラーリのユーザーが望んでいないことと、フェラーリのDNAとマッチしないことなどから発売の計画はないという
クネヒテル氏はルノー日産オーストラリアでオーストラリアのディーラーネットワーク管理を担当するビジネスマネージャー、ブランドのシニアマネージャーなど務め、中国のポルシェ・ホールディングに在籍し、ポルシェ、BMW、フォルクスワーゲン、ベントレーといったブランドの事業展開を行なっていた経歴を持つ

――韓国では大統領選挙があり、北朝鮮との軍事的緊張も高まっているようです。このようなことは韓国におけるフェラーリの経営に影響はあるのでしょうか。

デパオリ氏:ひと言で言えば「ノー」です。韓国、北朝鮮に限らず世界では色々な出来事が起こっています。そして、韓国に関して私たちは長期的な確固たるビジョンを持っています。また韓国には素晴らしいパートナーもいます。そのなかで私たちのブランド価値を認知していただき、それを周知するための教育もきちんと行なっております。そういったところから地理、政治に影響されるということはございません。

――2016年を振り返ると年間8000台くらいの販売があり、今年も同様の生産台数になりそうな見通しです。かつてフェラーリのリーダーだった方はプレミアムブランドとしてのバリューを維持するための年間生産台数は7000台と言われていました。現在はそれを超えていますが、これについてフェラーリはどう考えているでしょうか。

クネヒテル氏:私たちの企業理念であるエクスクルーシビティは以前とまったく変わりません。ですから生産台数が1000台プラスではないかという指摘もありましたが、エクスクルーシビティなアプローチはそのまま残っています。実は私たちには確固たる数字というものはないのです。ですから上限がここで、それを超えてはならないという理念はなく、多少の柔軟性を持っています。それは私たちもマーケットのなかで「成長したい」という気持ちを持っているからです。そもそも“伸び”というものはこちらが設定するものではなく、市場の状況次第で自然に伸びていくものと考えています。ですから、マーケットのなかで「これくらいだろう」というところから一歩引いた数量という程度の考えに基づいて生産しています。

デパオリ氏は2014年にフェラーリ・ジャパン&コリアの社長に就任。以前はマーケティング・プランニング・マネージャーとして英国フェラーリに在籍。その後、中国、香港ならびに台湾地域における営業、正規ディーラーネットワークの開発なども手がける

――812に対してSuperFastというサブネームを復活させた理由を教えて下さい。

デパオリ氏:1960年代に「500SuperFast」というクルマがありましたが、フェラーリにとってV12気筒エンジンは伝統に則ったもので、そのエンジンを積む812にSuperFastの名前を付けることは好意的に思われるのではないでしょうか。また、812の性能を見てもSuperFastというサブネームを付けることは、本当に納得できる部分なのではないかと思っています。そんな自然な流れで812にSuperFastのサブネームが付いたということです。

――2016年のフェラーリの日本での売り上げが好調でしたが、その理由を聞かせて下さい。

デパオリ氏:たしかに2016年は日本におきましては記録的な年だったと言えます。そこには2つの理由があるのではないかと思っています。先ほどクネヒテル氏からもお伝えしたように、日本とフェラーリには50年という歴史があります。そう言いったなかでお付き合いの長いお客様がいらっしゃることが1点です。

 もう1つは商品においてGTモデルが大変成功しました。とくに「カリフォルニアT」は日本市場で非常に好評だったクルマです。同時に「GTC4ルッソ」も好調で、長いお付き合いのあるお客様が支持してくれただけでなく、年齢が若い方にも受けたようで、新しいお客様を獲得できたことが成功の理由だと思っています。

――いまおっしゃった若い層へのアプローチの成功ということについて、なぜそうなったのか考えを聞かせて下さい。もう1つ、日本経済はまだ回復したと言えない状況ですが、それでも好調だったということについての意見もお願いします。

デパオリ氏:これは私どものコミュニケーション戦略の効果もあるのではないかと思っています。たとえばTwitter、Instagram、FacebookなどのSNSでは日本語でブランドを展開しています。また、公式サイトの「Ferrari.com」では世界6カ国語で展開しているうちに日本語も入っています。それに70周年を記念する特別なWebサイトもあります。こういったデジタル戦略がカギになっているのではないかと思っています。

 もう1つの質問である日本の経済状況に関することですが、私は日本に来て3年経っていますが、フェラーリが属するスーパースポーツカーのセグメントは記録更新といった好調を続けています。そういったなかで、私たちは商品戦略においても市場の動向に忠実でお客様の立場も考えた新しい商品を投入することで、新しいお客様を獲得できていると考えています。エクスクルーシブであることは維持しつつも、成長を目指していくという戦略が成功しているのだと思います。それにやはり中古車という市場も重要ですので、こちらも充実させています。