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“弱かった点を全部払拭した”三菱自動車の新型「eKスペース」についてデザイナーの大石聖二氏に聞く
スライドドア開口幅は95mmアップの650mmに
2020年1月15日 00:00
- 2020年1月10日~12日 開催
幕張メッセ(千葉市美浜区)で1月10日~12日に開催された「東京オートサロン 2020」。三菱自動車工業のブースでは、「東京モーターショー 2019」で参考出品された「スーパーハイト軽ワゴンコンセプト」の市販バージョンとなる2台を展示。車名が「eKスペース」「eKクロス スペース」になると正式に発表された。
また、軽ハイトワゴン「eKクロス」のコンセプトをより強調した「eKクロス WILD BEAST Concept」も展示されたので、デザイナーの三菱自動車工業 デザイン本部 プロダクトデザイン部 デザイン・プログラム・マネージャーの大石聖二氏にそれらの特徴などについて話を聞いた。
“クロス”を強調したネーミング
――まず、今回のネーミングで“スペース”の位置が変わりました。そこでこのeKクロス スペースに込めた思いから教えてください。
大石氏:これまではeKスペース カスタムとeKスペースと呼んでいましたが、今回からはeKクロス スペース、そしてeKスペースとしました。このようにした理由は、eKクロスと同様のことをeKクロス スペースでも行ない、SUVテイストのスーパーハイトワゴンを作ったからです。顔も然り、そのほかのパーツや外観から醸し出す雰囲気など、すべてでeKクロスの世界観を表現しました。そこで、eKクロスの“スペースバージョン”の意味を込めて先にeKクロスと言ってからスペースと呼んでいるのです。
“SMILES&FREESTYLE”で先代の弱点を払拭
――このeKスペースシリーズのデザインコンセプトについて教えてください。
大石氏:“SMILES&FREESTYLE”です。自由な発想で、ユーザーが“こう使いたい”という時、それに対応できるようにデザインしました。
――これまでのeKスペースではそういったところが物足りなかったのか、と受け取る人もいると思いますが。
大石氏:そういうことです。現行のeKスペースで弱かった点を全部払拭していきたいという思いが込められています。例えば、室内のスペースで弱かったところは全部払拭しようと、室内幅や後席の広さ、積載量といったところは全部クラストップを目指して開発しています。
――では、それらをデザイン上でどのような見せ方をしているのでしょう。
大石氏:まず、エクステリアではあまりボクシーに見えないようにしました。限られたスペースの中で抑揚がある、立体感のあるボディ断面にしています。ともするとバンのように平面な断面になりがちですが、そうならないように、例えばフロントフェンダーまわりの断面の取り方なども含めて気を遣いました。
――一方でeKクロスの方が抑揚面としては大きいと思いますが、eKスペースとeKクロス スペースであえてそこを少し抑えたのはなぜですか。
大石氏:それはクルマの性格です。背が高いのでeKクロスよりはワゴン的、ボクシー的になると思いますし、ベルトラインもeKクロスより水平基調です。基本的にはすべて長手方向に作ることで、クルマが短く小さく見えないよう工夫しています。それでもフロントまわりはとても立体感のある造形にできていると思います。
スーパーハイトの顔として緻密にデザインしたダイナミックシールド
――では、eKクロス スペースとしてのデザイン上の特徴を教えてください。
大石氏:eKクロスと比べてボディの縦横比が違いますから、ダイナミックシールドフェイスのバランスをすべて取り直して、スーパーハイトワゴンの顔としておかしくないよう緻密なデザインをしたところです。
――その時にはデザインコンセプトの“SMILES&FREESTYLE”とのバランスも出てくると思いますが。
大石氏:はい。eKクロスと比べるとあまり強面ではない雰囲気を出しています。それはターゲットの違いでもあり、eKクロス スペースの方がeKクロスよりも女性ユーザーを意識してデザインしているからです。
使いやすさを重視したインテリア
――インテリアのこだわりを教えてください。
大石氏:非常に気をつけてデザインしました。特にカラーリングやステッチ、素材などにはかなりこだわりました。
例えば荷室部分にははっ水素材を使っています。リアシートを畳んでフラットにして、自転車を載せたり、アウトドアで子供たちと遊んだ後に汚れ物をそのまま載せたりすることもできるようにしました。
また、シートの素材感やオレンジのステッチ、グレイスコード(シート背面の横基調のもの)が入り、(上級仕様では)インパネにもステッチが入っています。ルーフのサーキュレーターも、現行モデルは樹脂製で後付け感がありましたが、今回はきちんとインテグレートさせています。さらにeKクロスの時と同様、収納の数にも非常に気を遣いました。つまり、現行モデルで劣っているところはすべて改善し、よかったところはそのまま踏襲したのです。特に収納の多さはクラストップレベルを狙っています。
――しかし、収納の多さと使いやすさは違ってくると思います。
大石氏:“隠す収納”と“見せる収納”があります。例えば、ボックスティッシュなどは普段は見せたくないですよね。でも、使いやすくしたい。そこで助手席前の引き出しを開けたらすぐ使えるようにしています。また、センタークラスター下部にボックスを作っており、空き缶や汚れたゴミなどをそこに入れておけば普段は見えません。
一方、スマホも充電しやすいようにUSBとスマホの位置関係を考え、引き出しやその上の棚に置けるようにして、そこには滑り止めも装備しています。
新型eKスペース ターボはeKスペース カスタムの進化版
――では、今回初めて公開されたeKスペースについて教えてください。
大石氏:展示車はターボ仕様ですので、顔を精悍に見せるためグリルを黒にしています。一方、自然吸気仕様はボディカラーと同色です。
eKスペース カスタムが廃止となり、eKクロス スペースとなりました。しかし、eKスペース カスタムに乗りたいという方は必ずいらっしゃいますので、そのような人に向けてはこの新型eKスペース ターボの外観をお薦めしたい。それを意識してデザインしています。
――eKスペースのデザインコンセプトは何でしょう。
大石氏:eKクロス スペースよりもより親しみやすい、万人受けしやすい形を狙っています。そこで外観上はいかつく見えないようにしながら立体感は損なわないようにしました。
――eKスペースの方がフロントまわりで曲面を感じます。そこはeKクロス スペースと大きく違っていて、より女性を意識しているようにも見えますが。
大石氏:極端な言い方になりますが、eKスペースが女性向け、eKクロス スペースが男性向けとなるでしょう。eKスペースは40代~50代の女性に向けて、嫌悪感を持たれないような柔らかい面を使った立体感のある造形にしています。
――そのほかエクステリアの特徴を教えてください。
大石氏:リアまわりではボディ色を全体的に感じられるようにしています。バンパーガーニッシュは黒で締めており、eKクロス スペースはメッキパーツをふんだんに使っているという違いがあります。メッキは好き嫌いが分かれるところですので、eKスペースはわりと万人受けを狙っているからです。
また、パッと見て“ただの箱”に見えないような工夫を色々なところに施しています。テールランプを外側いっぱいにまではみ出させたりなどはその例です。ちなみに、スライドドアが現行モデルから95mm大きくなっているのもアピールしたいポイントです。
――eKクロス スペースとeKスペースでインテリアの違いはありますか。
大石氏:内装の基調色が違います。樹脂部分の色が違い、シート表皮も異なっています。eKスペースはグレージュ主体の色使いをしていますので、優しく見えるでしょう。汚れが気になるので黒い方がいいという話もありますが、われわれはそこは逆だと思っています。泥汚れや靴に付いた汚れは白いので、この内装色の方が目立たないのです。足下あたりに黒い内装トリムがあると白い汚れが気になってしまいますよね。お母さん目線だと内装基調色はベージュの方がいいはずだとわれわれは考えました。
コンセプトをより強調したeKクロス WILD BEAST Concept
――今回の東京オートサロンにはもう1台、eKシリーズのコンセプトモデルとしてeKクロス WILD BEAST Conceptが出品されました。これはどういったコンセプトカーでしょうか。
大石氏:eKクロスのデザインコンセプトは“キュートビースト”です。そこからよりワイルドにという思いを込めて今回のオートサロンに出品しました。
――なぜこのコンセプトカーを作ろうと思ったのですか。
大石氏:eKクロスですが、われわれが思っていたSUVとしての売り方があまりできていなかったのです。CMもその香りを感じ取ってもらえるような内容になっておらず、どちらかというと機能訴求と新しいクルマが出たというアピールしかできていないと感じていました。そこで「eKクロスはSUVのような使い方ができる」ということを訴求したかったのです。われわれとしては“SUVテイストの軽自動車”というところがアピールポイントで、名前もその意味を込めてeKクロスとしていたのですが……。そこで、われわれが作りたかったeKクロスにより近づけたのがこのeKクロス WILD BEAST Conceptなのです。
――カタログモデルからの変更点を教えてください。
大石氏:顔まわりではフロントグリルとバンパーガーニッシュ、フォグランプガーニッシュが変更されています。タイヤとホイールはこのクルマ専用で、サイドシルガーニッシュなどの部分も変えています。ほかにルーフとバックドア、ドアミラーにプロテクターを兼ねてフィルムを貼りました。バンパーガーニッシュのカラーリングも、本来シルバーのものから黄色になっています。
もともとこのクルマのコンセプトが“黄色いクルマ”で、そのカラーでCMも放映しています。その黄色をリスペクトした形で色のコンビネーションを変えたり、グリルも黄色くしているのです。
――あえてこのカラーリングにした理由は何でしょうか。
大石氏:黄色を主体に、何をどうしたらワイルドに見えるのかというところを検討した結果です。従って、このカラーリングはワイルドさを強調したものなのです。それ以外の色も少しは見たのですが、ほとんど検討せず黄色に決めました。
実はこのホイールは純正ホイールとまったく一緒でカラーリングしか変えていません。黒かったところを黄色く塗って、アルミの地肌だったところを黒く塗っています。また、フロアマットも専用で、元々は黒いマットですがこの(ベージュ系の)色に変え、色をシート表皮と合わせているのです。同様にインパネトレイマットもシート表皮の雰囲気に合わせています。
――社内での評判はいかがでしたか。
大石氏:商品企画系の役員から非常に好評でした。今回の反響を見ながら、デザイン部としてはぜひ市販化に向けて頑張って検討していきたいですね。