試乗レポート

雪道でもグイグイ曲がる、新型「クラウン クロスオーバー」の後輪操舵DRSとリアモーターを士別で体感

士別試験場で新型クラウン クロスオーバーの雪上走行をしてきました

 新型クラウン クロスオーバーの衝撃のデビューから半年。新型クラウン クロスオーバーでは、2.5リッターシリーズパラレルハイブリッドと新開発2.4リッターターボのデュアルブーストハイブリッドという2つのパワーソースが用意され、いずれもリアにモーターを持つ4WDとなっている。

 さらにこの後輪は、後輪操舵のDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)を装備し、逆相/同相を自在に作動させ、小回りだけでなくハンドリングにも大きな影響を与える斬新なものだ。

 4WDシステムとDRSを理解するには雪道が最適だが、北海道にあるトヨタ自動車の士別試験場で圧雪のショートサーキットとワインディングロードで試乗すると機会を得ることができた。

圧雪のショートサーキットコースを走る新型クラウン クロスオーバー

走りのデュアルブーストハイブリッドと、効率のシリーズパラレルハイブリッド

左が2.4リッターターボのデュアルブーストハイブリッド、右が2.5リッター シリーズパラレルハイブリッド

 簡単にクラウン クロスオーバーの復習をしておくと、4930×1840×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mmのLサイズで、地上高を上げたクロスオーバータイプ。4ドアクーペスタイルだが後席の居住性も十分だ。

 まだこのカテゴリーは日本では周知されていないのでとまどっている潜在ユーザーもいるが、これまでの試乗で走りの実力はクラウンのイメージを覆すのに十分だ。

 走りのハイブリッドを担うデュアルブーストハイブリッドは、最高出力200kW(272PS)/6000rpm、最大トルク460Nm(46.9kgfm)/2000-3000rpmを発生する2.4リッター直噴ツインスクロールターボ「T24A-FTS型」エンジンに、61kW(82.9PS)、292Nm(29.8kgfm)のフロントモーターと6速の多板クラッチトランスミッションを通してフロントを駆動。加えて、リアは2.5リッターハイブリッドの40kW/121Nmよりも大出力の59kW/169Nmのモーターを搭載するイーアクスルを配置して、システム最高出力349PSを発生する。

 一方の高効率ハイブリッドの2.5リッターTHSは使い慣れた2.5リッター4気筒「A25A-TXS」型エンジンで出力は137kW(186PS)/221Nm。88kW(119.6PS)/202Nmのモーターを組み合わせ、システム最高出力は172kW(234PS)。リアモーターは40kW(54.4PS)/121Nmとなる。

 この仕様だけ見てもデュアルブーストハイブリッドのパワー志向が分かる。車両重量はデュアルブーストハイブリッドのRSでは1900kg、THSのAdvancedでは1770kgと差があるが、出力の違いは大きい。

 プラットフォームはTNGA GA-KとなりRAV4やカムリと同じ名称だが、クラウン クロスオーバー用に7割が改良されており、多くの部分が作り直されている。GA-Kを使うメリットは、衝突対応などクルマの基本的な骨格に同じものを用いることで開発時間を大幅に短縮し、ムダなコストの削減にもつながっている。

 サスペンションはフロントはストラット、リアはこれまでのGA-Kのダブルウイッシュボーンから、クラウン クロスオーバーの性格に合わせてマルチリンクに変更されている。

後輪操舵のDRSでグイグイ曲がる未知の体験

2.4リッターターボのRS

 士別試験場に用意されたコースは、1周約2.7kmの圧雪テクニカルコース。なかなか走れない条件だ。装着スタッドレスタイヤはブリヂストン ブリザック VRX3。サイズは225/45 R21の大径タイヤで、デュアルブーストハイブリッドのRSから走り出す。

 アクセルを踏むと押し出されるようにコースに出ていく。士別の銀世界では箱根で試乗したときより速く感じる。トラクションコントロールのお世話にならずに力強く加速していき、4WDの安定性は高い。ホイールスピンする様子もなかった。

 最初の右コーナーでハンドル応答性の高さを確認。アクセルオフと軽いブレーキング、ハンドル操作の一連の流れの中でACA(アクティブ・コーナリング・アシスト)が作動し、内輪に軽くブレーキを掛けることで旋回しやすくなる。

 後輪操舵のDRSは、高速域でわずかに同相に切ることで高い姿勢安定性を発揮するが、新型クラウンでは低速において積極的に逆相に動かすことで旋回力を上げることにも使っている。4WDとの合わせ技だが、これによって雪道での走りやすさは抜群のものとなっている。DRSが逆相に入るのは、およそ60km/hまで。中低速コーナーでフロントが滑り出してしまうような場面でもグイと曲がろうとするのは未知の体験だ。

 興味深いのはADAS系を活用した路面認識。カメラで路面を認識して雪道とドライ路面を判別して(夜間に発生するブラックアイスは判別できないという)低μ路に適した制御を行なっている。圧雪サーキットでは駆動力がフロント寄りになる感触だった。NORMALモードでも走りやすい。

 コースにも慣れて速度を上げる。長いコーナーでRがきつくなると徐々にフロントが滑り出すが、ハンドルを一端戻してからさらに切り込むと再びノーズをインに向ける。限界点はあるものの操作に合わせてクルマが反応する。わずかな操舵でこれほど曲がりやすくなるとは! これまでの常識とは異なる動きに驚かされた。クルマからドライバーに寄り添うような感触だ。安全マージンが高くなっているのも感銘を受けた。

 コーナーの立ち上がりにおいて、まだヨーイングが残っているタイミングでアクセルを踏み込むと後輪モーターが瞬時に反応して、少しテールアウトの姿勢になる。イーアクスルの駆動力を持つ、パワフルなデュアルモーターハイブリッドの実力を知ることができた瞬間でもある。

 SPORTモードに入れるとアクセルレスポンスが速くなり、DRSの制御や駆動力配分も異なってターンインのきっかけを作りやすい。リスクも若干上がるがクルマを操っている感触は広がる。

 最後にスタビリティコントロールを解除してみた。姿勢の作りやすさは変わらないが、姿勢安定制御の介入がないのでハンドルやアクセルは先読みをして早めに操作する必要がある。また、コントロール性に変化はないが、制御をOFFにすることで高いボディ剛性を感じることができた。

 もう1つ分かったことはVSCやトラクションコントロールの介入の考え方。少し前のようなお仕置きモード的に出力を絞るのではなく、これ以上の変化は危険と判断したときに初めて介入する。セオリーどおりに運転していればVSCの作動は限られて積極的に走りをサポートする制御が分かる。

雪道で安定感の高い2.5リッターTHS

安定した走りを見せる2.5リッターTHS

 次に2.5リッターTHSをドライブする。デュアルブーストハイブリッドに比べると穏やかだが加速力は十分で、加速中の安定感は揺るぎがない。スタビリティコントロールはONのままだが、トラクションコントロールの作動を示すワーニングランプはほとんど点滅しない。RSに比べると出力が小さいこともあるがフロント寄りの駆動力配分も大きい。

 ターンインはRS同様にACAが作動して曲がりやすい。ハンドル操舵力も適度で、かつ応答性が高くて好ましい。そしてコーナーは面白いように曲がるのはRSと同様だ。相対的に前輪で引っ張る駆動力配分も巧みで安定性が高い。後輪モーターの出力が小さいこともあり、アグレッシブな動きはしないが、それが2.5リッターハイブリッドの安定のキャラクターになっている。

 スタビリティコントロールの作動も穏やかだ。安定した姿勢を崩すことでコーナーを回ることが多いサーキットでは、OFFにした方が走りやすいことが多いが、クラウン クロスオーバーでは作動させたままでもターンインの姿勢を作りやすい。制御が運転をサポートしてくれる。

 DRSの効果も高い。タイトなヘアピンではハンドルを切り込むと後輪を逆相に入れて旋回しやすくする。さすがに周回を重ねると路面が磨かれてアイスバーンになってしまい、前輪が早いタイミングで滑り出してしまう。グリップを回復するには速度を落とすしかないが、早いタイミングで旋回力を回復し安全マージンは大きい。

 最後は21インチの大径タイヤからエアボリュームの大きな225/55 R19を履いた2.5リッターハイブリッドに乗り換えた。タイヤ幅は同じだが接地形状が異なる。21インチのスタッドレスもマッチングはよいが、19インチは圧雪路の挙動が穏やかになり、路面の凹凸でも応答性は高い。アクセルを踏んだときのグリップ感も粘るような感触が好ましい。スタッドレスタイヤをホイールとセットで用意するなら19インチも選択肢に入る。

 サーキットタイプの圧雪路から、ワインディングロードに場所を移す。こちらは低中速でコース幅も狭い。路面は圧雪とアイスバーンが入り混じり、コーナーのカントもさまざまに変わる。実際に遭遇する山道に近く、ここではライントレースの正確さが分かる。

 新型クラウンの制御は精密で、1車線しかないアップダウンのあるコースでも安定感が高く気持ちよく走れたが、2.5リッターTHSの出力は、このコースにおけるマッチングがよかった。

 パワフルなRSは狭い道では力を持て余すときもあるがメリットも大きい。圧雪が磨かれてアイスバーンになった滑りやすいコーナーで、THSでは引っ張りきれずにアウトに膨らんでしまう場面でも、力のあるリアモーターの駆動力を活かして姿勢をコントロールできる。前後の滑りをコントロールすることでダライビングの幅が広がる。

 サーキットでも感じたDRSの効かせ方も、デュアルブーストのRSは旋回力を、2.5リッターTHSは安定性を活かした使い方で、それぞれ性格分けが明快になっていた。

 制御に頼ってラフな運転をするとしっぺ返しを受けるが、4WDとDRSの可能性は広がっており、人間臭いところがクラウン クロスオーバーの雪上走行で感じられたことだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。