まるも亜希子の「寄り道日和」
心に沁みる写真を見つけた写真展「世代を超えて2人展」
2018年8月2日 00:00
カメラに収められなければ、きっと次々に流れていく膨大な時間に、はかなく埋もれてしまっていただろう……。そんな一瞬がシャッターによって切り取られて、永遠に動かない情景として保存され、時と空間を超えて今、こうして私が出逢えたということが、奇跡のようにも感じられる作品たち。それらはフォトグラファー・永元秀和さんの人間味あふれる人柄と、アーティストとしての鋭い感性が最高の化学反応を起こして生まれたものだろうと、しみじみ感じ入ってしまいました。
永元さんは、日本で最も長い歴史を持つ自動車専門誌「Motor Magazine」でクルマを撮り続けているフォトグラファーです。私は同じ発行元の「ホリデーオート」の撮影でたまにご一緒させていただき、永元さんを慕う後輩や編集者、業界女子たちの飲み会などに混ぜてもらっているうちに、すっかりファンになってしまった1人です(笑)。
そんな永元さんから「久しぶりに写真展をやります」とメールをいただき、7月23日~28日に、銀座K's Galleryで開催された「世代を超えて2人展」にお邪魔してきたのです。あまり美術・芸術方面には知識も才能もない私なので、こうした写真展などに行くのはいつも緊張してしまうのですが、永元さんが「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくださり、ホッ。そして目の前の作品1枚1枚から、今にも笑い声やつぶやきが聞こえてきそうで、吹き抜ける風や街の喧騒に包まれそうで、じんわりと心の奥が温かくなってきたのでした。
すべてにクルマと人が織りなすストーリーが感じられる作品たちの中には、永元さんがまだ学生で、クルマの撮影をするフォトグラファーになるなんて思ってもいなかったころに、偶然撮った1枚もありました。撮影したのは1978年の横浜。ヨーロッパやアメリカの作品の中、唯一日本で撮影された写真です。もしかするとこれが、常にクルマと人の情景を見つめるフォトグラファー・永元さんの原点なのかもしれないですね。
さて、「世代を超えて2人展」というだけに、もう1人、作品を出展されたアーティストがいらっしゃいます。若手画家として数々の賞も受賞されている、風見規文さんです。永元さんの写真とはまったく違う世界観で、額装もせず壁にテープでラフに貼られた作品たちは、一見すると「なんだろう?」とすぐには理解できないものばかり。写真なのか、絵なのか? それさえよく分からないのに、不思議と惹きつけられてしまいます。
そんな作品たちは、風見さんが「レントゲンシリーズ」と呼ぶ静物写真で、題材の多くは昆虫や動物の骨といった、ちょっとグロテスクなものたち。それをレントゲンのように撮影したあと、手でコツコツと風見さんの感性に従って仕上げていった写真です。風見さん自身も本当は虫が苦手なんだそうですが、「でも、そういうものたちにもよく見ると美しい部分があって、それを引き出したいなと思ったんです」とのこと。確かに元が虫だとは思えないくらい、美しくて神秘的なものに昇華している印象でした。
会場では風見さんの作品に惹かれ、熱心にその技法を聞いているお客さまがいらっしゃるなど、アートに精通されている方も注目している若手画家・風見さん。それにしても、なぜこの2人がコラボレートしているの? というと、実は風見さんは以前、Motor Magazineの表紙を撮影していた写真スタジオでアシスタントを務めていた経験があり、そこで永元さんと出会っているのです。若き風見さんは、永元さんが真摯に作品に向き合う姿勢に胸を打たれ、人柄にも惹かれ、「こんど展示をご一緒してください」とお願いしたことがあったそう。永元さんが快諾してそれが今回実現したというわけです。
永元さんに「久しぶりの写真展はいかがですか?」と尋ねると、とても楽しいと生き生きした表情。永元さん自身も、この写真展を開催するにあたって、撮ったことなどすっかり忘れていた写真を見つけ出したり、開催期間中はご無沙汰していた人たちと再会できたり、まったく違う世界の人たちと出会って話ができたり、新たな刺激をたくさん受けている様子でした。
写真って、私が一生かけても出逢えなかったかもしれない一瞬を見せてくれたり、言葉を使わずとも雄弁で、見る人にいろんな感情を呼び起こしてくれたり、やっぱり素晴らしいなぁと実感したのですが、撮る人・観る人をつなぐような、いろんなご縁を運んでくれるものなんですね。今回私も風見さんと初めてお会いしたのですが、短時間だったにもかかわらず、会話の端々に類稀なる感性がほとばしっていて、すっかりファンになりました。
永元さん、風見さんがこれからどんな作品を発表してくれるのか、ますます楽しみです。皆さんもこのお2人に注目しつつ、心に沁みる写真を見つけてみてくださいね♪