イベントレポート

自工会 豊田章男会長、ジャパンモビリティショーの毎年開催について言及 「技術革新をよりアジャイルに進めるためには、2年に1回のペースメーカーではなくて……」

日本自動車工業会 豊田章男会長

自工会 豊田章男会長にジャパンモビリティショーの手応えを聞く

 10月25日から開幕した「ジャパンモビリティショー2023」(一般公開日:10月28日~11月5日、場所:東京ビッグサイト)。ショーの主催者であり、東京モーターショーからジャパンモビリティショーに変革する原動力となった自工会(日本自動車工業会)の豊田章男会長が、初日を終えた時点での取材に応えた。

 豊田会長は、2020年2月下旬から本格的に始まったコロナ禍においては、約550万人が従事する自動車産業をいかに守っていくかに注力。2021年に
開催予定だった、東京モーターショーもいち早く中止の決断を行なった。

 その一方で、2023年の東京モーターショーは、自動車だけではなく、自動車を軸にした視野を広げたモビリティのショーへと変革を図り、将来的には約1000万人になるというモビリティ産業の中核のイベントに育てようとしている。

 コロナ禍も明け、守りの姿勢から攻めの姿勢へ転じた形だ。

 この共同取材で、豊田会長はモビリティショーの年次開催に言及。モビリティショーが終了し、「『毎年毎年、多くの方に見ていただこう』という声が沸き起こってきたら、成功の一つではないかというふうに思います」と発言し、技術革新をよりアジャイルに進めるために2年に1回ではない形を検討したいと語った。

とくに面白いなと思ったのは商談ルームがある

──自工会会長として、ショーとしてはひさびさだと思いますが、いつも会長は会場のいろいろなところまで回って、細かく見てらっしゃると思いますが、今回(東京モーターショーから)ジャパンモビリティショーになって、会場を回って感じた変化とかがありましたら教えてください。

豊田章男会長:今回ね、東京がジャパンとなり、モーターショーがモビリティショーに変わる。名前だけの変化じゃないなぁというのを、相当感じ取られるのではと思います。(自動車)OEMのブースが大きく2つに分かれ、ワールドプレミアもそこにありますし、前回のトヨタブースは1台のクルマも出さない、出さない展示をやりました。今回は社長も変わりましたから、ちゃんと車両を出したり、モーターショーの香りがしたりする。その中でも特に生活体験みたいなものが表現できていたのではと思います。自工会ブースに行くと、テーマに合うような形で、とにかく多くの会社が集まってくれたと思います。

 特に注目していただきたいのは、災害にゴジラがやってきている。今まで自工会ブースというと、自工会の場だったのですが、自由に使ってくださいという場に変わったと思います。

 そこでは、今までの(自動車)OEMの仲間たちと、いわゆる電気系だとか、ベンチャー系だとか、いろいろな人が集まって、災害復興、人助け、そういう場面が見られるわけです。あれなどは、私が目指していたジャパンモビリティショーに、一歩近づいたのかなと思っています。

 みんなでやっていく、そうすると結果、みんなありがとうと言える。最後は笑顔になる。それが日本のもの作り企業の協力体制みたいなものが、あそこにちょっと凝縮されているかなと思いました。

 最後はベンチャー。100社ほど今回参加いただいて、とくに面白いなと思ったのは商談ルームがあるのです。商談ルームがあって、特に部品工業会だとか、いろいろな方がそこでいろいろな話ができる場を用意しています。

 先ほどスズキさんのブース行ったら、元トヨタの社員がスカイドライブをやっていたので、社長に「ぜひ商談ブースを活用したら」って言ったら、鈴木社長から「いえ、もうスズキでやっていますから」と言われました。そういう動きもある。商談ルームで新たな物語が発生してもいい。

 今までモーターショーというのは、ワールドプレミアを出す場として、何となくゴールだったのです。それがジャパンモビリティショーになることで、新しいスタート、新しいご縁があって、新しい未来を作ることができるものになっていく予感を昨日1日歩いた限り(注:豊田章男会長は、開幕前にショーの全体を視察している)で感じました。

 ただ昨日はちょっと(ワールドプレミア前なので)伏せていたところもありますので、今日いろいろ見させていただきました。

──豊田会長は以前から「この指とまれ」というお考えがあり、今回は経団連のモビリティ委員会という枠組みもあって、前回の倍以上、500社近くが指にとまったという形になると思います。この枠組みというか、どのような未来を作っていきたいかという考えについていかがですか。

豊田章男会長:日本にはいろんな見本市がありますけど、100万人以上入るイベントです。今回はモーターショー時代にご参加いただいた会社の名前に加えて、今までモーターショーでは入ってなかったような、でもモビリティでは仲間になれたねという結果が500社だと思います。

 先ほども申しましたように、ここで新たな未来、新たな物語を進めてほしい。そしてそれが未来作りにつながってほしい。そして何よりも、自動車という、自動車業界という非常に波及効果が大きい、いろいろな産業がやっている総合産業であるがゆえに、人が集まってくるのではないかと思っている。

 今はいろいろ多様化といわれていますが、それは大事なのですが、その中でみんながやっていく。この前のモビリティ委員会はよいコンセンサスを得られたのですが、みなさんがおっしゃっていたのは「われわれ1社だけでは、未来を作るのは無理です。そこの限界を感じました。ただこうして協力をすることによって今は回答がないけれども、何かそちらの方に進める勇気をいただいた」。

 ですからぜひともそのムーブメントを、モビリティ委員会の方々、今回新たに出展いただいた方々、そしてまた今回見に来られた方々、そんな方々がどのような化学変化を起こすのか。そこにぜひご注目をいただきたいですし、私も期待をしています。

──今回、4年ぶりの開催となり、モーターショーからモビリティショーに変わっての大きなショーになりました。確かに社会につながる話、カーボンニュートラルの話、スタートアップも多くあり大きく変わった印象があります。しかしながら開幕初日に歩いていると、いろいろなクルマが出ており、思った以上に新しい提案のクルマが出ていて、正直ワクワクした部分があります。豊田会長自身クルマ好きとして、会場を歩いてどのように思われましたか?

豊田章男会長:それ、会長に聞いています? それともモリゾウに聞いています(笑)。

──あ、ではモリゾウさんで。

豊田章男会長:モリゾウさんだといろいろあるから、会長でいきましょう。

 会長としては、地元の参加に加え、今回新たに海外からも参加いただいた2社(BMWとBYD)も含めまして、やはりモビリティショーと変わっても来られる大半の方は、どんなクルマでわくわくさせてくれるのだろうという気持ちは持っておられると思います。そういう方々をも裏切らなかった。裏切らなかった各社の出展には本当に感謝申し上げたいと思っています。

 けど、一つだけ、一つだけ言わせてもらうと、電動化、知能化、DX、GX、はやり言葉ばかり並べないでよと思った部分はあります。実態はどう?とね。実態はどうなっているの?ってちょっと感じました。どこも同じことを言ったら面白くないでしょ。やはりそこに個性が出てほしかったなぁというのがある。

 盛り上がっていることは非常にありがたい。だけどそこに各社の特徴、というのがより出てくれればよかったんじゃないかなと思っています。

──記事を朝からいろいろ掲載していますが、マツダのロータリースポーツ(「アイコニック SP」)はものすごい反応でした。

豊田章男会長:そういう意味では、スバルに水平対向の新しいのがということはどう思っているの?

──飛行機(「SUBARU AIR MOBILITY Concept」)ありました。

豊田章男会長:中島飛行機だしね。

あっという間に新しい自動運転というものが全世界に押し寄せる可能性がある

──自動運転というのがキーワードになっていたかと思うのですけど、EVと同じで未来はここまで行きますみたいな。現実とどれぐらい合っているのかという説明がなかなかユーザーに届かず、ちょっと独り歩きし、すごく過剰な期待を抱かせてきているのかなと思うのですが、自工会会長として各社の取り組みとか、今日の状況を見て、メーカーの自動運転の取り組みというのは、どのような状況で、それをどう評価されているのかを聞かせてください。

豊田章男会長:自動運転というのは、以前、今のBEVのように、ちょっと前のPHEVのように、それを言わないと相手にされない。そして2年先には、100年前に馬がクルマに変わったように、全部自動運転車に変わるというようなムードからいきますと、非常に現実的になったなと思います。

 自動運転の目的は無人で走るクルマを作るという技術力の競争も大事なのですが、それよりも人間では限界のある「安全な交通流」を作ること。そして人間では限界がある、本当にトレーニングをしなければ行けない上級レベルの運転が、あっという間にすごい人数を作ることができること。これだと思うのです。

 そうすると、今の実験室での段階から、だんだん実証実験から実走実験に移ってきた国もあるよってことなのです。アメリカなどは、ものすごく進んでいると思います。日本の場合は、各メーカーに自動運転、自動運転、ということを要求するだけでなく、インフラとか、ルールメイキングとか、目的はこうだよねって言うところを、今まさにもうちょっと声を上げる段階に来たのではないのかなと思います。

 ですからこれは、メディア各社にお願いしたいのは、海外を見てみれば、アメリカは無人タクシーが何百台単位で動き始めている。そこはやっぱり、そういうルールができて、日々そこではデータが蓄積されて、日々技能が磨かれ、あっという間に新しい自動運転というものが全世界に押し寄せる可能性があります。

 それを日本メーカーたちがどう受け止めるか、そして日本メーカーのがんばりだけでは、それは難しいのではと思う。ルールメイキング、そしてインフラと相まってやっていくことじゃないのかなと思います。

 さんざん自工会では「自動車関係諸税は非常に高いよ」ということで(声を上げている)。払いたくないと言っているのではなくて、そのお金が新しいモビリティで未来へつながるような、有効にお金を使っていただきたいということをさんざん申し上げておりますので、ぜひとも今こそ応援いただきたいなと思っています。

 そういうことがなければ、日本は今まで結構いい感じで競争していましたけれど、ここから先、どうかな。ここから先、ひょっとすると差がついちゃうかもしれない、という段階にあるんじゃないのかなと思います。

 今はね何かね、やっぱりBEVとかね、知能化とかいうのは流行りの言葉なんじゃないかなというふうに思いますので。ぜひともそういう流れ、流行りというのもあるのですけど、中長期的に見て、どうやってモビリティが変化していくのかという軸は持っていただきたいなというふうにも思います。

モビリティショーがスタートであるならば、1年に1回開催してもいいのでは

──世界のモーターショーが、どんどん地盤沈下していったと以前会長がおっしゃっていたと思うのですが、その中で多分日本が先陣を切って新しいショーの形を示そうとした第1回になるととらえています。世界に新しいショーの形を提示できたというふうに考えていらっしゃいますか?

豊田章男会長:初めて提示したのは前回のモーターショーだったと思います。ちょっと誤解なきように言うと、まったく私の属人的なパワーによりやったと思うんですね。ですけれども今回はですね、属人的なパワーというよりは「みんなで作ったモーターショー」という形には相当こだわりました。

 自工会のいろいろな方々、そして副会長会社を中心にした各OEM、それに加えてベンチャーの会社だとか、モビリティ委員会で集まっていただいた日本自動車工業会には属さない方々、それから部品工業会とかですね、そういう仲間が入り、みんなで作り上げておりますので、これからですね、自立的にかつ持続的にするには、今回のモビリティショーがどんな来場者で、どんな新たな物語が生まれ、どんなご評価をいただけるか、というのにかかっているんじゃないのかなと思っています。

 厳しくご注目いただいて、どんなモビリティショーで終わるのかなっていうのを、ぜひ見ていただいて、できることならね、できることなら、こういう新しいスタイルへというので日本自身が元気になる、日本自身がちょっと未来に期待できる、期待できるようなメッセージを出せる、そんな人たちが増えるモビリティショーとして、後味を持っていただけるのであれば非常にうれしいなと思っています。

──今のお話をうかがうと、モビリティショーがこの会期で終わるのではなく、そこからむしろ個社ずつの新しい組み合わせであるとか、トライみたいなことが始まっていくということで理解をしてよろしいですか?

豊田章男会長:はい、そうなると、このようなことを言ったら問題かもしれませんが、今は2年に1回じゃないですか。もしスタートであるならば、1年に1回ね、やってもいいんじゃないのと。

 というのは、例えばこれをスタートに、こんな新しい物語ができました、こんな技術革新をよりアジャイルに進めるためには、2年に1回のペースではなくて、「毎年毎年、多くの方に見ていただこう」、そんな声が沸き起こってきたら、成功の一つなのではと思いますね。

 ただ、これ書き方気をつけてね(笑)。

──だとすると、物語ができていく過程を、どこかで、例えば自工会が発信するとか?

豊田章男会長:はい、それは今の自工会の理事会は、ずいぶん変化していまして、非常にディスカッションというか、いろいろな方がそれぞれの気になっているトピックを、それぞれのお立場の方が語り合っているという場です。

 そこで、「ところでどうなった?」となると、そういうときに意見が必ずや「じゃあ、これはこうしようよ」とか、副会長の方が非常に積極的に発言をされています。

 そういうことをみなさま方にも順次お知らせしながら、機運として「じゃあ来年もやりなさいよ」というふうになると、持続的につながる仕組みになっていくのではないかなと思います。

──単純な話です。読者の結構な数から言われたのですけど、開催時間を2時間延ばしてほしい。でなければ2時間動かしてほしい、そうすると仕事終わってから東京都内から行けるだろうという人が結構いて。それをぜひとも自工会会長に言ってきてほしいと。

豊田章男会長:本当にそうですよね。これでもちょっと延ばしました。ちょっと延ばしたのですけど、限界でした。

長田准 モーターショー委員会委員長:これは、時間を延ばすと労働力の確保がどうしても限界にきて。また、会期中検討しますけれど、今はこれで始めさせていただきました。

モビリティショーの注目コンテンツは?

──(今回のモビリティショーでは、来場者100万人を目指していますが)100万人を目指してどういうお客さまに来てほしいかというのをうかがえれば。また、これはなかなか答えづらいかと思うのですが、そういったお客さんにまずここは必ず見てほしいなというところを、具体的な社名とかですが、ポイントをうかがえるとありがたいなと。よろしくお願いします。

豊田章男会長:そのまま記事にしようとしていませんか(笑)

──それはします(笑)

豊田章男会長:どういう方に来てほしいかというよりは、ここに来た方がみんなバイク好き、クルマ好き、モビリティ好きになって、そのような後味を持って帰っていただきたいと思います。

 ここに来る前はね、「クルマ、興味ない」っていう方も、なぜか友達に連れられてここに来た、そうしたら「クルマ、クルマって思っていたけど、モビリティと考えると面白いね」っていう後味を持って帰っていただく、それが必要なんじゃないのかなと思っています。

 それと、どこのブースかっていう意味ではね、まずは自工会ブース(笑)。

 まずは自工会ブースを見てもらえません? フューチャーツアーの大画面で、あそこで自分に興味がある未来を何となく感じていただきたいというふうに思います。そうすると、そこでね、その後の工程が決まってくるのではないかと。

 いろいろな体験で、またいろいろなモビリティが映像の中によく見ると入っています。そこでどこへ行くかお決めいただくのが、いい順路じゃないかなって思っています。

 それと、コロナ禍も終わり、各社もいろいろなパフォーマンスというか、いろいろなエンタテイメント系もちょっと増やしています。ぜひ、そういう所、どうしてもモビリティショーというと「商品、商品」になっていきますけれども、ぜひとも演者、演者のパフォーマンスなんかも、ちょっとご注目いただきますと、そこにはいろいろなメッセージがあると思います。

 そこには20分なら20分中で一つのストーリーを言おうとしていると思うのです。ですからそのストーリーを感じいただくと、ご自身の未来の扉が開くんのではないのかなと思いますので、ぜひそんな記事を書いていただければ。

長田准 モーターショー委員会委員長:自工会のブースも、今会長からいろいろなダイバーシティというか多様性のメッセージがあったのですが、フューチャーツアーを抜けたところで、モビリティのある生活をパフォーマンスしていただいています。そこでは、義足の方にも演者をお願いして、ダイバーシティのレベルを今回は思い切り上げようよと。われわれからのメッセージもあります。モビリティだけではなく、ダイバーシティとか多様性とかもぜひ見ていただき、そこから出てくる生き生きとした生活も感じていただけると大変ありがたいなと、自工会からもお伝えします。

日本自動車工業会 モーターショー委員会 委員長 長田准氏

──今回は、ある意味モーターショーを1回ぶち壊すというか、フルモデルチェンジをさせたモビリティショーだと思います。その結果、なんだかモーターショー度がより濃くなった感じがするのです。さらにそれに加えて、例えば自工会の提案であれば今までモーターショーであまりなかったモータースポーツなど、見る側の選択肢が増えたというのは非常に大きいと思うのです。その辺はどう見ていますか?

豊田章男会長:多分、私がクルマを好きなんでしょうね。古い人間なんですよ。古い人間だと思います。

 でもやっぱり、好きだっていうことは理屈を超えて、それを突き抜けた何か新しい共感が生まれるってものじゃないのかなというふうに思います。

 そういう意味では、好きな人が好きなことをやっている。だけどそこには必ず共感する人がいる。それを誰でもかんでも同じことやっている中では、そういう共感が生まれないと思うのです。

 ですからそんなモビリティショーになっていけば、ものすごく新たなファンもね、きっと参加してくれる。「この指とまれ」ではないですけど、そうやって来てくれることこそが、日本の元気、世界への発信になるような気がします。やっぱり好きな人が、好きなことをやるっていうことを、ぜひ応援いただきたいなと思います。

──前回のモーターショーから4年ぶりの開催ということで、この間に長い新型コロナウイルス禍があって、人々も直接会う機会を欲していたと思うのです。一方でその間にオンライン化がすごい進んで。その中で、あらためて人と人が一堂に会して集うことの意味とか、インパクトについておうかがいできれば。

豊田章男会長:オンラインの生活を強いられること、そして各自の生活をしたことによって、逆にFace to Faceだとこんなことできるね、オンラインでこんなことできるねっていう、両方のよさがあったような気がします。

 だからここから先は、こうやって実際にリアルに人が集まっていただけるスキームが許される時代になってきたので、せっかくこの2、3年、いろいろなことを学んだのは私だけじゃなくて、すべてそこを経験した人たちが学んだわけです。

 許されるから元に戻るのではなく、きっと人間は賢いので、こっちもいい、こっちもいい、ならこういう新しいやり方あるよねっていう意思と動きが今後あると思うのです。

 だからぜひチャレンジした方々をみなさま方が応援いただけますと、世の中が少しずつかもしれないけど、いい方に変わっていくのではないのかなと。

 その中に、お互い「ありがとう」と言い合える日本のよさみたいなものが、また新たに湧き出てくるといいなと思います。

 先ほど自動運転の話もありましたけど、この東京がジャパンになっても、この東京という街は、以前江戸だったのです。「江戸仕草」という言葉があります。江戸は当時から世界でも有数の大きな人口を抱えた街でした。

 ところが道が狭くて、雨で傘をさしてお互いすれ違うと開いた傘をそのまま双方向では通過できないような道の細さがあったと聞いています。そんなときに、ちょっと相手に雨のしずくが、濡れないような形で行き交うというのが江戸の所作だと思うのです。

 それが日本の所作であるなら、交通事故死者は以前1万6000人以上亡くなられていましたが、現在は2600名ほど。ただ残念なことにその2600名ぐらいで止まってしまっている(編集部注:2022年が2610名、2021年が2636名)。内容が変わってきている。内容が歩行者と自転車というか新しいモビリティになっています。自動車はいろいろなところで、教習所だとかそういうとこで教育を受けますけれども、歩行者の方とか新しいモビリティの方々というのは、安全装備が少ないです。例えば事故があると全部クルマがわるいということではなく、かつてこの町で行なわれたような、お互いに目で合図をしながら安全を確認する江戸仕草さで。傘もこうしたような形の安全運転ができるような日本、それを取り戻すきっかけになってもらえたらいいなと思っています。

 今はSNSで自分の意見を言うチャンスはあるのですけど、自分の意見、他の意見、どっちが正しいではなくて、こんな意見もあるのだなというね、温かい雰囲気。モビリティに変わったことによってできてくると、モビリティショーで新たな出会いも一杯出てくるのではないかと思っています。

 ぜひそういうところを取材していただきながら、いい情景があったら、ぜひそこを多くの国民にご紹介いただくと、「日本ってそうだったよね」って思い出す人も増えると思いますので、ぜひともお願いしたいと思います。

──4年ぶりの日本でのショーになります。今日は海外メディアもいらっしゃっています。世界への発信という意味で、この辺りを見てほしいとかあれば教えてください。

豊田章男会長:本日は8000名の方(プレスデーへの来場者)が来場されております。国内外含めて、それぞれの方たちが本当に、ご自身が感じられたものを発信されると思う。これが一番ありがたいと思います。

 自工会会長としては、出展していただいているすべての商品、すべての会社、それとすべてのサポートをしている人にご注目いただきたいと思っています。私にとってはすべてがキャストで、すべてがヒーローなのです。ですからお1人お1人に、ぜひともご自身の感性で、ご注目いただいて、なんか感じていただいたら、それをまた来たいなと思うような発信でお手伝いいただきますと大変助かります。


一般公開は10月28日〜11月5日まで

 新たなスタートを切ったジャパンモビリティショーだが、質問にもあるように、思った以上にモーターショーだった。各社からは魅力的なコンセプトカーが発表され、その中にはほとんど市販車のような作りのようなものもある。間違いなく、クルマ好きには見逃せないショーとなっている。

 その上で、スタートアップやテクノロジ関連など、新たな業種もモビリティということで参加。商談コーナーもあるなど、新しいビジネス創出現場になろうという変化も前面に出ており、モビリティ関連のビジネスを立ち上げたい人にとっても有意義な場になっている。ここから10日間のショーが始まるが、このショーでどのような物語が生まれていくのか、注目していきたい。

編集部:谷川 潔