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トヨタよ、敗者のままでいいのか。トヨタのル・マン24時間参戦車両「TS050」技術説明会
「ル・マンに勝って一流の自動車メーカーの仲間入りをしたい」と、村田部長
2016年5月21日 00:00
- 2016年5月20日 開催
トヨタ自動車は、モータースポーツブランドとして“TOYOTA Gazoo Racing”をひっさげてモータースポーツ活動を行なっている。その中でももっともハイレベルな挑戦として位置づけられているのが、世界3大レースの1つとされているル・マン24時間レースを頂点としたWEC(世界耐久選手権)への参戦となる。特に1985年にトヨタチームトムス、トヨタチーム童夢の2チーム体制で初参戦して以来、何度かの中断を挟みながら挑戦し続けているトヨタのル・マン24時間レースは、2014年にポール・ポジションを獲得しているものの未だ優勝には手が届いておらず、これまで4度の2位が最高位という現状にある。
今年のトヨタは、本来であれば2017年の導入を計画していた技術を1年前倒しで新型マシン「TS050」に投入し、2015年のル・マン24時間覇者であるポルシェ、そして長年のライバルであるアウディに対抗する強力な体制になっている。ドライバーにも新しく元F1ドライバーの小林可夢偉選手が加入するなど、ドライバーラインアップの強化も図られている。
そうしたトヨタのル・マン24時間レースにかける思い、そして技術的な詳細を含めた説明会を、5月20日に都内で開催。技術陣のトップとなるトヨタ自動車 モータースポーツユニット開発部 部長 村田久武氏、トヨタ自動車 モータースポーツマーケティング部 部長 沖田大介氏が出席した。
2006年の十勝で初めて走らせたレーシングハイブリッド
村田氏はモータースポーツ関連の経歴を長く重ねてきたモータースポーツ開発のエキスパートで、1987年~1993年にはトヨタの第1期ル・マン挑戦にも関わっていた。その後はチャンプカー(現在のインディカーシリーズの前身の1つ)用エンジンの開発、市販車用V6エンジン「2GR」の開発などに関わり、2006年からモータースポーツ部でレーシングハイブリッドプロジェクトを担当し、現在に至っている。
村田氏は冒頭、「我々モータースポーツ部がハイブリッドレーシングを始めるときに決めたモータースポーツの定義を紹介したい。オリンピックにおいて選手が全身全霊を賭けてやるのと一緒で、サーキットでメーカーがすべてを発揮して自動車の発展に寄与し、新しいハイブリッドの潮流を世界中のファンにお届けしたい。そう言うと、いつになったらワクワクするクルマを出してくれるのかという質問を受けることがあるが、ル・マンで勝ちたいのはもちろんだが、最終的にはレーシングハイブリッドカーを市販することがゴールだと考えている」と述べ、そのレーシングハイブリッドに挑戦する意義は、将来的にはそれを元にしたレーシングハイブリッドカーを市販車として出すことにあると説明。
その上で、レーシングハイブリッドの開発はトヨタ本体だけでなく、トヨタグループの総力を挙げてやっているとし、そこで得られた知見は関係部署に貫流される仕組みになっていると説明した。また、今年からドライバーに小林可夢偉選手が加入したことに触れ、「これまで我々は中嶋一貴選手とずっと一緒に仕事をしてきたが、冷静沈着に見える一貴選手に対して、可夢偉選手はもうちょっと奔放みたいな外見だけど、レース後には非常に冷静な分析をしてくれるなど中身は全然違っていた。それに対して一貴選手は、どんなマシンでも乗りこなしてしっかりタイムを出してくれる。そういう異なる2人のキャラクターが自分たちの開発の戦力になっている」と、2人の日本人ドライバーが開発に大いに役立っていることを明らかにした。
そんなトヨタのWEC/ル・マン24時間挑戦だが、現行マシンとなるTS050のハイブリッドシステムの直接の先祖となるのは、2006年7月に北海道の十勝サーキットで行なわれた十勝24時間レースに参戦した「デンソー・レクサスGS450h」だという。そして翌2007年には「デンソー・スープラHV-R」を同レースに持ち込み、見事優勝を果たしたという。村田氏によれば、ハイブリッドをレースの世界に持ち込んだということで、その反響はヨーロッパからもあったという。その後、そのシステムを元に当時のル・マンの覇者であったアウディのディーゼルエンジンに勝つにはどうしたらいいかを概算してみたという。村田氏は「当時の市販車に搭載されていたシステムで、ディーゼルと戦える出力を実現できるハイブリッドのシステムは621kgになった。それでは勝負にならないので、勝負になる重量を計算してみたところ180kgとなった。そこでシステムパワーウェイトレシオを6倍にするという目標値を設定した」と述べ、その時点からル・マン挑戦を見据えた目標を設定していたことを明らかにした。
その進化として2006年の「GS 450h」、2007年の「スープラ」、2008年の開発用システム、「TS030」と呼ばれる2012年と2013年用車両に搭載された第4.5世代、2014年と2015年のTS040に搭載された第5世代、そして今年のTS050に搭載されている第6世代と進化したことを説明。それぞれ世代によってモーターの搭載位置や、バッテリーないしはキャパシタなどの搭載位置が異なっていることなどが解説された。
熱効率の改善という方向性が市販車の開発とマッチ、即座に市販車にフィードバック
今年のTS050には、トヨタが「'16THS-R(第6世代)」と呼ぶレーシングハイブリッドの最新システムが搭載されている。村田氏はTS050の仕様について、「現代のWEC車両は、カウルを外すとまさにフォーミュラカー。エンジンはV6 2.4リッターターボで、シリコンカーバイトを採用したフロントモーター、リアモーター、蓄電は昨年までのキャパシターからリチウムイオン電池に変更している。エンジンで500馬力、モーターで500馬力で加速初期には1000馬力を発生させる」と説明した。ただし、そのリチウムイオン電池がどのような仕様なのか、モーターがどのような仕様なのかは競争上の理由ということで語られなかった。
また、村田氏はル・マン24時間レースのレギュレーションの変遷についても説明し、2008年にはタンク容量が90Lで周回あたりの燃料は無制限で、その時点では3分18秒と速い予選ポールタイムを実現していたという。その後、だいたい3分30秒をターゲットラップタイムにレギュレーションが調整され、燃料タンクの容量が徐々に削減され、2012年にハイブリッドが導入されてからは1周あたりに使える燃料量にも制限が課せられていったそうだ。
村田氏は「特に2014年の変更では、吸気量の制限から燃料量の制限に変更された。それまでは空気量が絞られてきたので、できるだけ回転数を上げて馬力を出すという方向の競争になっていたが、それは市販車とは乖離していた。しかし、燃料制限になるとパワートレーンの熱効率を上げる方向に競争軸が変わっていった。それは市販車の開発の流れとリンクしており、市販車の先行開発がレースでできるようになっていた」と述べ、現在のWECのレギュレーションが市販車の開発にリンクした仕組みになっていると指摘した。村田氏によれば、今年のレギュレーションでは燃料タンクの容量も絞られ、同時に燃料量の制限も厳しくなっており、まさに熱効率を向上していくことが、競争に打ち勝つ鍵だとした。
そして、その熱効率向上競争としては、アウディが採用しているディーゼルエンジンがこれまで優位に立っていたが、近年ではガソリンエンジンもそれに追いつきつつあるとし、「ディーゼルの熱効率は46%ぐらいだが、これまで不利だったガソリンエンジンも改善されており、40%程度にはなっている」と説明。さらに熱効率を上げる工夫として、リーンバーン燃料やフリクション低減、さらにレースにおける使い方の改善ではイエローフラッグやバーチャルセーフティカー中などに、エンジンの片方のバンクを停止させる(減筒制御)や、EVモードでの走行などの運用面での工夫も行なっているとした。
また、そのエネルギー回生のシステムについて、村田氏によればトヨタのTHS-Rのエネルギー回生は主にブレーキからの回生(ERS-K)をターゲットにして開発しているとのこと。現在、燃料から取れるエネルギーを100とすると、馬力として出力される分が約30%、排気が約30%、それ以外が40%という構成になっている。トヨタのTHS-Rでは、運動エネルギーになっている部分をブレーキから回生してエネルギーとするERS-Kというシステムに注力しているという。
なお、F1ではこれに加えて、排気からエネルギーを回生するERS-Hも利用しており、将来的には同様の回生なども考慮に入れられているという。村田氏は、「将来的にはERS-KもERS-Hも、どちらも必要な技術になる。弊社の中でのターゲットは火力発電所レベル。ぐるぐる回っているクルマの中のパワートレーンで、据え付け型の火力発電所を超えるエネルギー回生を実現しようという目標に向かって開発している」と述べ、より高効率なエネルギー回生システムを目指す目標を持っていると説明した。
キャパシタから高効率なリチウムイオン電池に変更し、さらに熱効率を改善
そのトヨタのTHS-RにおけるERS-Kについて、村田氏は「レースカーは250km/hから100km/hまで5秒で減速しないといけない。市販車のエネルギー回生システムの60倍のパワーが必要になる」として、急速に回生したエネルギーを蓄電し、逆に急速に放電できる蓄電装置が必要になると説明した。村田氏によれば、キャパシタの容量は小さいものの、急速に出し入れができるという特徴があり、従来はそこを評価して使っていたという。これに対して従来のバッテリーは、容量は大きくできるものの、急速な出し入れが難しいという弱点を抱えていた。そこで、トヨタが関係メーカーと一緒に開発した今年のリチウムイオン電池は、高出力ながら出し入れもしやすいという仕様になっており、その問題を解決しているそうだ。
また、ERS-Kを開発するにあたっては、ドライバーがブレーキを踏んだときに、ドライバーの意志と異なる動作をしないことが重要になる。例えば、エネルギー回生が必要だからといって、ドライバーが踏んだ量以上のブレーキがかかってしまえば、クルマのスピンなどを誘発することになる。それではラップタイムも遅くなり、意味がないことは明白だ。そこで、ERS-Kを搭載した車両では駆動力、ブレーキ、モーターがコンピュータの制御にして連動して、ドライバーが踏んだだけのブレーキの効きを回生を行ないながら実現するという制御をしている。村田氏は、「特にリアの場合にはギアシフトがあり、そちらとの連携も考えないといけない。非常に複雑な制御を行なっている」と述べ、リアにモーターを載せる場合の難易度が非常に高いと説明した。
なお、ル・マン関連の車両を説明する時に、ハイブリッド車が1ラップに利用可能なエネルギー量として、4MJ(メガジュール)、6MJ、8MJという単位で説明される。現在はトヨタとポルシェが8MJ、アウディが6MJを選択している。この8MJの威力について、村田氏は「ル・マンでは7つのセクターに分けられるが、セクター1つあたりに1.14MJを使うと考えると、2.4tのミニバンをビルの20階相当まで押し上げるエネルギーだと考えられる。これが1ラップにつき7回使える計算になり、クルマはものすごい加速ができる。また、1ラップで8MJを充放電しているので、1.3周で10.3MJを充電している計算になるが、これは市販のハイブリッド車でやろうとするとだいたい3時間が必要になる」と説明した。
また、「運動エネルギーの効率を改善するとなると、空気抵抗の低減が必要」とし、TS0x0シリーズの空力効率の改善について説明した。それによれば、初期のTS030の段階でもSUPER GTやスーパーフォーミュラなどに比べて高い効率を実現しており、年々それは高められていると述べた。
最後に村田氏は、「現場のみんなと頑張っており、絶対にル・マンに勝ちたいという気持ちでやっている」と語り、実際にル・マンへ向けてパワーユニットを出荷した時の写真などを公開してル・マンでの必勝を期した。
「トヨタよ、敗者のままでいいのか。」というメッセージを敢えて打ち出す覚悟
一方、トヨタ自動車 モータースポーツマーケティング部 部長 沖田大介氏は、マーケティングの観点からトヨタのル・マン24時間レースについての想いを語った。沖田氏は「トヨタがドイツ勢の後塵を拝しているのは非常に悔しい。なんとしても勝ちたい」と、冒頭でいきなり技術陣にプレッシャーをかけるかのような言葉で説明を始めた。
沖田氏がそういうのも理由はある。というのも、トヨタは1985年に初めてル・マン24時間レースに参戦して以来、1994年までの第1期では最上位が2位という成績で終わっている。さらに1998年~1999年の第2期でも、1999年に2位が最上位でやはり優勝とは無縁になってしまっていた。2012年からの現行WECシリーズへの挑戦では、2014年にアウディ、ポルシェを上回る最速カーを作り、WECのチャンピオンは獲得したが、大事なル・マンでは中嶋一貴選手のドライブでポールポジションは獲得したものの、決勝ではつまらないトラブルで中嶋組の車両はリタイアに終わり、またも2位という残念な結果になってしまったのだ。初参戦から30年以上が経過しているが、未だにトヨタはル・マン24時間レースに勝てていないという現状にファンは残念だと思っているのはもちろんだと思うが、それを何よりも悔しく感じているのは他ならぬトヨタの社員だろう。
そこで沖田氏は、今年のル・マン挑戦をアピールする新聞広告ついて、次の広告を打っていくという。それが「トヨタよ、敗者のままでいいのか。」と刺激的なタイトルが入ったメッセージで、WECについて説明するとともに、ハイブリッド車オーナーのためにも勝ちたいというメッセージを打ち出していくという。トヨタ自らこうしたメッセージを出していくことで、WECにあまり詳しくないユーザーにも「トヨタって負けてるの?」というところから興味を持ってほしいと沖田氏は説明した。
また、WECをテレビ中継で追いかけているような熱心なファンだけでなく、ライトユーザーにもアピールできるように、トヨタのLINEアカウントを利用したスタートのライブ中継や2時間ごとのダイジェスト中継、さらにはTOYOTA Gazoo RacingのWebサイトで、ドライバーにスポットを当てたコンテンツやレースカーを載せたキャラバントレーラーの展開、さらには10月に予定されている富士スピードウェイでのWEC日本戦へのプロモーションなどを行なっていくと説明した。
「開発は厳しいが、ル・マンに勝つことができればその経験がトヨタの財産になる」
以下、報道陣からの質問に対して、村田氏が答えるという質疑応答が行なわれた。そのダイジェストを紹介する。
――リチウムイオン電池の安全性について
村田氏:ハイパワーのリチウムは何年もかけてやってきたし、その過程で社内ではリチウムイオンキャパシタもやってきた。ハイパワー型のリチウムイオン電池は暴走すると危険で、徹底的に安全性に注意を払ってやってきた。EBCシステム、高容量型のリチウムはドライバーに被害を与えてしまう可能性がある。トヨタは安全のノウハウやマニュアルがあり、そこの部署と安全に関しては議論してきた。冷却も耐久性も問題ない。先日のスパのレースでは路面温度が50度になっていたが、リチウムイオン電池に関してはまったく問題なく動作している。
――燃料の効率について
村田氏:WECに関してはシェルが配合している。市販車と大きく乖離した数字ではない。純粋なハイオクではなくて、アルコールも20%入っている。
――今年の戦力分析についてはどう考えているか?
村田氏:戦闘力に関しては、去年惨敗したので今年は絶対優勝する目標を立てて開発してきた。自分たちはル・マンというコースレイアウトに特化したクルマを、超短期で開発した。昨年のル・マンの時に今年はすべてを一新すると決めた。エンジンもリチウムバッテリーも、10カ月の超短期開発をこなしてきた。クルマが走り始めたのが2月ぐらいからで、ポールリカールテストやシルバーストーンの開幕戦はマッチングの真っ最中。この間の第2戦スパでようやくレースができるようになったのが実態。
各メーカーともレギュレーションどおりのキャラクター。ディーゼルはブーストしないないときには有利で、その場合はアウディにアドバンテージがある。ポルシェに関しては8MJで2年目、コンポーネント個々では自分たちも負けていないが、ブーストするタイミングや予選モードの使い方、オペレーションに関しては1年熟成されている分だけ戦闘力は高い。トヨタに関してはル・マンを見ててください。
――スパの第2戦でエンジントラブルが発生していたが、その原因は?
村田氏:今日はそのことをいっぱい聞かれるかと覚悟してきた(笑)。信頼性に関して、エンジンにはまったく心配していなかった。スパでなんで壊れたのかと言えば、スパのオールージュの壁に跳ね返された。オールージュを登るときに路面にこすられるが、その時にへし折られたという感じ。ただ、あのようなコースはスパしかなくて、ル・マンに関してはまったくトラブルが出ないと考えている。詳細を言うことはできないが、とにかくオールージュの壁に跳ね返されて強打したというのが実態である。
――ストレートの終わりでリフトアンドコーストをしている例があるが……
村田氏:耐久走行で燃料稼ぐのは、最高速に達したときにスロットルを抜くというのが効率がよい。グループCの時もやっていた。燃料を使う場所、ラップライムを削減できる個所に燃料やエネルギーを使うなど、どこで何を使えばいいのかは人間の頭では解析できない。ラップタイムシミュレーションで、一番ラップタイムを削れるようなプログラムを組む。しかし、WECの場合はバックマーカー(周回遅れの車両)を抜いていかないといけない。バックマーカーを抜くところでどのように使うかはドライバーに裁量を与える。
LMP1-Hの燃料容量がどんどん下げられている。馬力が小さいとはいえ、LMP2も結構速いので、ブーストしないとLMP2などは抜きにくい。燃料容量が削減されればされるほど、ドライバーに裁量を与えないとレースにならない。ドライバー、チームの総合力が問われるレースだ。
――ドライバーによる違いはあるのか?
村田氏:当然燃費のよい走りをするドライバーや、成績がいいドライバーはいる。そうでないドライバーは徹底的にお仕置き部屋に入れられるので、結局は同じレベルに収斂する。ただ、前述のように抜くときなどの裁量権はドライバー次第。
――スパのレースではブレーキングでLMP2に当たっている例があったが、今年の特性が何か影響している?
村田氏:あれは回生がうまくいかなかったからではなくて、LMP1-H同士で競争が始まったところで、左にLMP2がいるという意識が抜けたのかなと思っている。
――ブレーキの感触などに問題はないのか?
村田氏:トヨタは長年ハイブリッドを開発してきた。ドライバーのブレーキペダルの入力を、要求通りに動力に対してブレーキとモーターが強調して制御していかないといけない。2012年の最初のころはドライバーは違和感を感じていたが、今は違和感はないと思う。自分の意図どおりのブレーキがかからないということはまったくない。
――今回かなり踏み込んだ広告を出すが、現場へのプレッシャーになったりするのではないか? こういうのは今回のワンオフでいいのか?
村田氏:レースをずっとやってくると、追い込まれれば追い込まれるほどワクワクする。世界と戦っているとたたきのめされる。自分たちが死ぬ気でやっても、向こうがもっと頑張れば負けてしまう。世界で勝とうとすると、こういう作業を毎年やらないと通用しない。この10カ月頑張っているが、最後に思い残すところはないか、少しでも心配なところはないかということを徹底的にやっているというのが今の状況。臨むところだというのが今の想い。
こういう取り組みが今回のル・マン、ワンオフでいいのかという件では、トヨタはル・マンに30年近くチャレンジしている。シルバーメダルホルダーなんですよ、ずっと2位。ル・マンでは頂点に登ったことがない会社なんです。我々の部にもOBが沢山いますが、何が何でもル・マンを獲れ、獲ってくれというのが先輩方を含めた自分たちの総意。WECシリーズチャンピオンは2014年に獲ったので、「年間タイトルよりもル・マンを獲れ」というのが自分の肩にかかっている。
――現場の若いエンジニアの方の反応は?
村田氏:今回の開発は、これまでの1番か2番になる大変なもの。この開発を決めたときに「このハードルはものすごく高いけれど、このハードルを登り切らないとル・マンで優勝できない」と若手に問いかけた。凄く高いハードルだし大変だけど、負け続けてみんないいのかと問いかけたらそうじゃないと。
自分がレーシングハイブリッドのプロジェクトを始めたとき、今のシステムは2006年からは考えられないレベルだった。やればできるといういい例だと思っている。今は部長という立場で組織を引っ張っていかないといけない。自分も若いころにチャンプカーなどで優勝して、チャンピオンを取れたときに頑張れば結果がついてくると思った。頑張ればできないことはないという自信がついた。若いスタッフが頑張っていて、新しい壁にぶち当たったときに乗り切れるかどうかは結果を出すことにかかっている。勝ってみんなで喜んでいきたいと思っている。結果が伴えば、この先トヨタの財産になると思う。
――リチウムイオンの急速充電が鍵だと思うが、それはどんなシステムなのか。また急速に充放電を繰り返すと、劣化が起きると思うが寿命はどのくらいなのか?
村田氏:そこは非常に大事な部分だが、残念ながらお話しすることはできない。寿命に関してはエンジンの寿命の目安を1万kmに置いており、バッテリーに関しても同様だと考えている。
――ポールリカールのテストの後、ル・マンスペックのテストをもう一度やったと聞いているが、その時に成果はあったのか?
村田氏:ポールリカールのテストはル・マンスペックのシェイクダウンだった。その問題の中身に関しては完全に把握しており、対策パーツは用意している。ル・マンに向けては問題ないと考えている。