インプレッション

三菱自動車「アウトランダーPHEV」(2017年一部改良)

要注目の「S エディション」

 世に出てきたときから、このクルマは“発明品”だと思っている。あえてSUVで企画された意義が小さくないことも触れるたびに感じる。ガソリンよりもPHEV(プラグインハイブリッドEV)のほうがはるかに売れているらしいが、それもいろいろな意味で納得である。そんな「アウトランダーPHEV」の登場から4年あまりが経過し、すでに多方面で高く評価されており、2015年の夏のマイナーチェンジでダイナミックシールドデザインを採用したほか、走りが大きく洗練されたことも確認済み。そしてそれをさらに進化させようというのが今回の改良である。

 ポイントとしては、PHEVシステムの進化と新機能の追加、S-AWC性能の向上、予防安全装備の向上、スマートフォン連携ディスプレイオーディオの設定が挙げられる。また、最上級グレードとして新たに追加された「S エディション」は今回の目玉となる存在で、試乗したのももちろんそれだ。

 内外装ではブラックルーフやパーフォレーションを施した本革シートなど、同モデルでしか選べない魅力的なものがあり、そのほかの部位も微妙に他グレードと差別化されていたり、走りについても台あたり約4mにもおよぶ構造用接着剤を用いてリアまわりの剛性を高めた専用ボディや、ビルシュタイン製ショックアブソーバーが与えられているのが魅力。これを知ってしまうと、ほかのグレードを選べなくなってしまう人は少なくないことだろう。

2月に一部改良が行なわれたプラグインハイブリッドEV「アウトランダーPHEV」。写真は最上級グレードとして新たに追加された「S エディション」(478万9260円)で、ボディサイズは4695×1800×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2670mm。車両重量はシリーズでもっとも重い1900kgとなる。パワートレーンは直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジンに電気モーター2基の組み合わせで、4輪を駆動。JC08モードのハイブリッド燃料消費率19.2km/Lなどスペックに変更はないものの、バッテリーマネージメントなどに改良を行なうことで、エンジンを始動させずに瞬発力を高めることに成功している。そのほかS エディションではフロントのラジエターグリルと18インチアルミホイール(225/55 R18)をダーククローム調、BピラーとCピラーを光沢カラー、前後バンパー下側のスキッドプレートをボディ同色としているのがポイント
インテリアでもっとも大きな変更点になるのは、EV走行優先の「EV プライオリティモード」が新設定されたこと。電動パーキングブレーキも新採用の1つ
一部改良により「スマートフォン連動ディスプレイオーディオ(SDA)」を新採用。Apple「CarPlay」、Google「Android Auto」に対応し、スマートフォンアプリなどをセンターコンソールの画面で扱えるようになった
「EV プライオリティモード」が採用されたことで、新たにセンターコンソール後方に新「EV」ボタンを新設。EVボタンを押すことで、エンジン始動を抑制しながら極力モーターだけで走れるようになった
S エディションではボディのリアまわりを中心に合計約4mの構造用接着剤を採用。これにより、タイヤの接地性を高めて車両の挙動を安定させるとともに、乗り心地と操縦安全性を高めたという

意地をかけた「EVプライオリティモード」

 PHEVシステムのハードウェアに関する変更はないが、制御の変更により走りも大きく変わっている。まず、ノーマルモードでもなかなかエンジンがかからずEV走行で粘るようになったと感じられた。そして今回の真骨頂である、新設定された「EVプライオリティモード」を選ぶと、よほどベタ踏みにしない限りはエンジンがかからずに、延々とEV走行し続ける。

「できるだけエンジンがかからないでほしい」というユーザーの要望を受けてとのことだが、実際に使うシチュエーションにおいても大きなメリットをもたらす。深夜早朝の出入りで音を気にせずに済むのは言うまでもなく、結構な距離をEVとして走れるので、充電設備があればガソリンをまったく使わずに通勤できる人もいるだろう。あるいは、たとえば筆者は内燃機関を搭載するクルマでエンジンをかけて短距離だけ走って止めることに対して、いろいろな理由で抵抗があるのだが、こうしたモードがあればちょっと駅まで家族を送るとか、近所のスーパーまで買い物に行くといったシチュエーションで、ぜひ積極的に使いたいと感じた。

 さらには、このクルマであればアウトドアで使われることも多いだろうが、たとえばオートキャンプに出かけて大自然の中でエンジンをかけたくないという人にとってもまさにもってこいと言える。既存の「チャージモード」や「セーブモード」と併せて上手く使いこなせば、非常に効率的で合理的な走り方ができることだろう。

 また、充電についてはこれまで80%充電に30分かかっていたところ、60Aの急速充電設備であれば25分でできるようになった。最近は課金が一般的になってきたこともあり、5分の短縮はありがたいと思う。さらに、加速性能についてもこれまでも十分によかったところ、よりレスポンスがよくパワフルになったように感じられた。ニュアンスとしては、より抵抗感がなくなった印象だ。ちなみにハードに変更はなく制御のみの変更であれば、従来型の車両もアップデートできるのかと思うところだが、それは無理らしいのであしからず。

新型アウトランダーPHEVでは急速充電時の対応アンペア数を50Aから60Aに高め、出力の高い急速充電器に対応。条件に応じてこれまで約30分だった約80%までの急速充電時間が約25分に短縮された

フットワークも魅力的

 さらに「S エディション」はフットワークのよさという魅力がある。1.9tを超えているとは思えない、俊敏で軽やかな身のこなしが心地よい。微小舵域からリニアな応答があり、操舵に対する応答遅れもなく、走りに一体感がある。ステアリングフフィールもよりスッキリとした印象になり、しっかり感が増して、全体的にグリップ感も高まっているように感じられた。リアはキレイに路面に追従して、リニアに横力が立ち上がる感覚がある。これには専用ボディとビルシュタインが効いているに違いない。

S エディションではビルシュタイン製の高性能ショックアブソーバーを採用
S エディションの後席も体験。当たりの強さはやや感じるものの、振動は瞬時に収束し、高速巡行時のフラット感も高い

 かなり引き締まった乗り味ゆえ後席では当たりの強さを感じなくはないが、初期がちゃんと動いていて、振動は瞬時に収束する。高速巡行時のフラット感も高い。これを硬いと感じる人もいるだろうが、筆者としてはあまり不満は感じなかった。ところで、ビルシュタインが付いているのに、このクルマにはロゴマークが貼られていない。せっかくなのでちょっとぐらいあってもよい気もした。

 S-AWC性能の向上については、雪道のように滑りやすい路面でのロックモードの制御を改良し、30%の旋回能力の向上を図り、レーンチェンジでのステアリングの切れ角も小さくなっていて、より思い通りラインをトレースできるという。いずれまた雪道を走れる機会を楽しみにしたい。

 そのほか、予防安全機能が大幅に強化されたことも非常に魅力的なポイント。また、パーキングブレーキの電動化によりブレーキホールド機能も備わったのもありがたい。これが疲労軽減に効果的であることには違いないが、欲を言うとリリースの際に若干ひきずりを感じるので、さらなる洗練にも期待したいところだ。加えて新設定のスマートフォン対応ディスプレイオーディオも、時代に合った有益なアイテムに違いなく、「S エディション」ならこれが標準装備されるのもありがたい。

 新たにブラックルーフが設定されたとはいえ、見た目はあまり変わっていないので、新しくなったことが見落とされがちになりそうな気もするが、こうしてプラグインハイブリッドEVの先駆者が、より自身に磨きをかけて価値を高め、さらに魅力的に進化したことを多くの人に知らせたいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学