試乗インプレッション

メルセデス・ベンツの直6ディーゼルターボ「Sクラス」、直6+48Vマイルドハイブリッド「Eクラス」を公道試乗

新世代の直6ディーゼル

 直6エンジンを搭載するメルセデス・ベンツのラインアップが増えているのは、個人的にも喜ばしい限り。今回は、かたや直6のディーゼルターボを搭載した「Sクラス」、かたや「メルセデスAMG」の新顔という2台。Sクラスに加わった「S 400 d」と、Eクラスに加わった「メルセデスAMG E 53 4MATIC+」(以下「AMG E 53」)を公道で試乗した。

 S 400 dに搭載されるのは、初出となる新しい3.0リッターの直列6気筒のディーゼルターボだ。Sクラスのディーゼルというと、そう遠い昔の話でもない2014年に発売された2.2リッター 4気筒のディーゼルハイブリッド「S 300 h」を真っ先に思い出す。同モデルは以降、Sクラス全体の販売の実に3割を占める人気モデルとなった。

 ところが、ダイムラーの「選択と集中」の考え方に則り、これまであった3通りの電動化技術を維持するには開発の負荷が過大であるため、48Vのマイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドを残す一方で、ストロングハイブリッドは廃止する運びとなった。決してビジネス的に上手くいかなかったわけではなく、むしろ大成功と言えるのだが、戦略的な判断によりこうなったとご理解いただきたい。

 今回のS 400 dは、件のS 300 hの実質的な後継となる。2気筒増えた新型エンジンは、「OM656」という型式から察せるとおり、他モデルの「220 d」グレードにも搭載され、すでに高く評価されている新世代ディーゼルの「OM654」型のファミリーに属する6気筒版となる。

 むろん、熱膨張率の違いによって温まると適度な隙間ができるアルミシリンダーブロックとスチールピストンの組み合わせや、ナノスライド機構、2ステージターボ、可変ターボジオメトリー、シングルではなくマルチウェイのEGRなど、特徴も似ている。燃焼室内の温度上昇を助け、より素早く処理システム活性させることのできる可変バルブリフトシステムを排気側に採用しているのも特徴だ。

「OM656」型の直列6気筒 3.0リッターディーゼル直噴ターボエンジンは最高出力250kW(340PS)/3600-4400rpm、最大トルク700Nm(71.4kgm)/1200-3200rpmを発生

直6としての期待にも応える

 S 400 dのシートに収まり、エンジンを始動してまずビックリ。「えっ、これってディーゼルだよね!?」というのが第一印象で、走り出してさらにビックリ。あまりに静かで振動もないことに目を丸くする。本当に、ディーゼルっぽさをほとんど感じさせないのだ。

 走り出そうとアクセルを軽く踏み込んで動き出す最初の瞬間だけ、アイドリングの約800rpmから1200rpm弱あたりまで回転が上昇するところで、注意深くするとディーゼルっぽい音をごくわずかに感じる程度。そしてエンジンが動いている状態で車外にいてもガラガラ音が耳に障ることはなく、感触としては最近のガソリン直噴ターボとなんら変らない程度の音しか聞こえない。

2つの高精細12.3インチワイドディスプレイを1枚のガラスカバーで融合させた「コックピットディスプレイ」が特徴的なインテリア。発進加速のわずかなタイミング以外には“ディーゼルっぽさ”を感じない

 さらにはドライバビリティも素晴らしい。ディーゼルとは思えないほどリニアなレスポンスと滑らかな回転フィールを持ち合わせていることには驚くばかり。加えて直6ならではの雑味のないサウンドまで味わえてしまう。ディーゼルでありながら、吹け上がりを楽しめるというのがたいしたものだ。

 そして、直6を好む人は大勢いると思うが、ディーゼルかどうかというのはもはや関係なく、しっかり“直6”としての期待にも応えるドライブフィールを身に着けている。また、試乗したのは4MATICではなく2WDだったのだが、アクセルを軽く踏み増すと後輪だけでは受け止められないぐらい強力なトルクを発することも印象的だった。

 ディーゼルについてはヨーロッパを中心に逆風が吹いているが、技術としてはしっかり進化していて、これだけ素晴らしいものがすでに世に存在することには、大いに感銘を受けた次第である。

使用燃料はもちろん軽油。タンク容量は70Lで、排出ガスを浄化する「AdBlue」の補給もここから行なう

直6+電動化による新感覚の加速フィール

9月6日に発売されたメルセデス・ベンツ「メルセデスAMG E 53 4MATIC+」(1202万円)。ボディサイズは4950×1850×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2940mm

 もう1台のAMG E 53は、ガソリンのマイルドハイブリッド。メルセデスAMGのモデルラインアップのさらなる強化の一環として、ハイパフォーマンスモデルに48Vシステムを搭載し、電気ブーストとして使った初のAMGモデルとなるのが「53シリーズ」となる。

 走りに特化した「63シリーズは」別格として、「43シリーズ」でも追求したハイパフォーマンスと快適性の高次元での両立を、53シリーズではさらに発展させ、快適性とスポーツ走行性能の両立を図っているのが特徴だ。

「M256」型エンジンはAMGモデルにふさわしく、同システムを最初に搭載して世に出た「S 450」よりもターボチャージャーを大型化するなどして、ピークパワーを68PS、ピークトルクを20Nmも増強させている。これに250Nmのモーターを組み合わせ、立ち上がりは電動ブーストをプラスし、エンジン回転が上昇すると電動スーパーチャージャーで加速させる。

 アイドリングの回転数が低く、エンジン停止~再始動もスムーズに行なわれるのはすでに体験しているとおり。直6ならではの気持ちのよい吹け上がりはもちろん、エンジンに電気の力が上乗せされた力強い加速がどこまでも続いていくかのような、新感覚の加速フィールを体験できる。また、むろん回生エネルギーによる電力の回収もぬかりはなく、シフトチェンジの際には回転を合わせる瞬間にモーターが補助することで、より瞬時にこなせるようになっているという。

 エキゾーストサウンドは標準モードでも意外と大きめで、音の出るモードにすると思ったよりもレーシーなサウンドになり、シフトダウン時に回転を合わせるため空吹かしを行なうあたりも、メルセデスAMGの一員としての期待に応えるものだ。

「M256」型の直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力320kW(435PS)/6100rpm、最大トルク520Nm(53.0kgm)/1800-5800rpmを発生

 恐るべき瞬発力と獰猛なサウンドを轟かせる63シリーズももちろん魅力的だが、そこまではいかなくてもそれなりに演出を楽しませてくれて、なによりも直6ならでなのフィーリングを味わうことのできる53シリーズの味をむしろ好むという人も少なくないことと思う。

 ハンドリングは量販グレードのEクラスがかなり軽快なのからすると、AMG E 53は軽快な中にも重厚さを感じさせる。今回はスポーティな走りは試していないが、サーキットを走らせても、いたって安定して速いことは確認済み。前後のトルク配分を最適に可変制御する「4MATIC+」は、優れた回頭性を損なうことなく、降雨などにより路面の条件がわるくなるほど恩恵をもたらしてくれることに違いない。

 こうしてタイプの異なる直6エンジンを搭載する最新のメルセデスをドライブし、それぞれに与えられた持ち味を楽しみつつも、極めて先進的である点にも大いに感心させられた。あらためてメルセデス、恐るべしである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

撮影:編集部