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パナソニック、車内製品の開発を効率化するVRシミュレータの技術デモ開催
UI開発の仕様変更を約30%削減
2020年1月21日 06:00
- 2020年1月20日 開催
パナソニック オートモーティブ社は1月20日、同社が開発したVR(仮想現実)技術を自動車向け製品の開発に活用する「VRシミュレータ」について解説し、実際に体験する報道関係者向けの技術セミナーを開催した。
2019年10月に発表されたVRシミュレータでは、ゴーグルを装着して運転者目線、同乗者目線から車内のHMI(ヒューマンマシンインターフェース)について検証する「ゴーグル型VR」と、壁面やフロアなどに映像を投影し、複数のスタッフでHMIについて検証する「オープン型VR」の2種類が用意されていた。
解説を担当したパナソニック オートモーティブ社 HMIシステムズ事業部 ディスプレイビジネスユニット 第三商品部 総括担当 遠藤正夫氏は新技術を開発した背景について、変化を続けるテクノロジーとユーザーの価値観に合わせた製品開発を行なうため、これからの2020年代には従来のような製品の持つ機能性だけではなく、利用者自身が意識することなくサービスが提供されるような新しいユーザー体験ができるようになることが求められてくると説明。ユーザー体験を製品のデザイン領域から推し進めることに重きが置かれるようになっているという。
具体的な製品開発の観点では、自動車に限らずさまざまな分野のハードウェア開発でコンピューターによるシミュレーションが利用されているが、シミュレーション上の製品が実環境でどのように見えるのかといった検証については、画像の状態から想像するほか、シミュレーションのデータを使って実際のデモ機を作り出す必要があった。このため検証は製品開発の終盤になるまではしっかりと行なえず、さらに今後求められるようになるユーザー体験を製品デザインに盛り込むことが非常に困難になると予想され、新しいシミュレーションを作る必要が出てきた。
そこで、パナソニックとして保有しているカメラやプロジェクター、映像技術、AI(人工知能)などの技術を活用し、VRシミュレータが開発されることになった。なお、複数のスタッフで検証が行なえるユニークな技術であるオープン型VRについては、ゴーグル型VRの開発でも行なわれている仮想空間の構築や車両の3Dデータなどの用意に加え、トリックアートやプロジェクションマッピングなどの技術を使って平面に投影される画像を立体的に表現する技術、乗員として映像内の車内に入る人と映像をリンクさせ、仮想空間に実在の人間を参加させるAR(拡張現実)の技術などが用いられているという。
同社ではVRシミュレータの運用をすでに進めており、車内のUI(ユーザーインターフェース)製品に活用した場合の事例として、開発工程における仕様変更の件数が約30%削減されていると遠藤氏は紹介。画面のデザインやUIについては最終段階までよりよくしたいとの要望があり、開発側としても応えていきたいと考えているものの、開発工程の後半に仕様変更が行なわれると負荷が大きくなってしまう。しかし、UI開発の初期段階からVRシミュレータを活用している場合には仕様変更の件数が減少している。
また、副次的効果として、これまでは開発後半の仕様変更に対応するためリソースが分散し、スケジュール内で間に合わなくなるため当初は盛り込む予定だった機能を絞り込むケースもあったが、VRシミュレータによる事前検証の導入でそのようなトラブルを減らせるようになっているという。
VRシミュレータは新製品の開発だけでなく、デジタルサイネージやインテリアコーディネートなどにも活用され、2019年10月に行なわれた「東京モーターショー 2019」のスズキブースでも、レベル5自動運転のコンセプトモデル「HANARE(ハナレ)」の活用方法について紹介する体験型コンテンツとして利用されている。
今後について遠藤氏は、「パナソニックとしては『アップデータブル』を基点に新しい商品を出していきたいと思っています。その際に、車室内におけるユーザー体験のポイントは、運転をするドライバーに対してどんなソリューションを出していけるのか、もう1つは後席で、クルマは10年前後使うものです。例えば後席に子供を乗せている場合、1歳ぐらいまでは子供を見守る空間、4歳~5歳ではもっと遊べるエンタメ空間、さらに7歳~10歳に成長した時には学習の空間と変化することが重要になります。前席、後席の車室空間をデザインのポイントにしていきたい」。
「もう1点では、人や街の変化と車内空間の掛け合わせで新たな商品を出していきたい。そこにアップデータブルの仕組みを持たせ、10年もしくは15年といった期間でサービスの価値を提供していきたいと目指しております。それにより、これまでの『デバイス売り』といったところから、時間の変化に追従できるような、ワクワクできる商品をこの先は出していきたいと考えております」と締めくくった。
表示内容や視点も自由自在
説明会後に行なわれたVRシミュレータのデモでは、ゴーグル型VRとオープン型VRをそれぞれ体験できた。
ゴーグル型VRではスポーク部分にタッチセンサーによる2つのスイッチを備えたデモ機が用意され、VRシミュレータ向けに同社が開発したVRゴーグルを装着して体験する。固定式ながらステリングを握るだけでも臨場感は高まり、複数の車内データを切り替えてもらいながら、運転席からの見え方の違いをチェック。
中でも驚いたのは、あえて「失敗版」を用意したというHUD(ヘッドアップディスプレイ)の試作データ。ゴーグル内と同じ映像を表示しているデモ機前方のディスプレイで見るとそれほど違和感はないが、ゴーグルを装着した状態では、運転席からの視界に対してHUDの表示が大きすぎで、運転中に目立ちすぎるだろうと感じた。また、ステアリング前方の見え方も、姿勢を少し動かすだけで死角が変化。インテリア設計で高い効果がありそうだと実感できた。
オープン型VRでは、4K解像度を持つパナソニック製の業務用プロジェクター3基と同じく4K解像度の業務用小型リモートカメラ2つを使用。プロジェクターによって2つの壁面とフロアに映像を投射。カメラによって内部に立つ人の位置などを検出している。
デモは乗員の位置を検出するマーカーをネックストラップで装着している状態とマーカーを使わない状態の2種類を紹介。開発当初はマーカーを利用して進めていたが、現在はAIを活用するカメラの画像解析で人物を追いかけるよう進化。マーカーを利用する方が処理の負荷が軽いが、今後は使わない方向で進めていくという。また、デモは3面に映像を投射するスタイルとなっているが、四方をパネルで囲んで5面に映像を映すことも可能とのこと。
マーカーを使わないデモではカメラで乗員の手の位置も検出。手のアクションにより、スタートボタンを押してメーターパネルの表示が点灯し、ドアが開閉。乗員の位置によって映像での着座位置も変化し、広いスペースで車内の装備などがどのように見えるのか、多くの人が検証できることが示された。また、自動車関連以外の製品での事例として、デジタルサイネージやインテリアの映像についても紹介されている。