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ホンダF1 田辺豊治テクニカルディレクター、「これまでホンダF1の活動を支えてくれた人すべてに感謝したい」
2021年12月13日 05:15
F1最終戦(第22戦)アブダビGPは、残り5周で導入されたセーフティカーにより大きく局面が変わり、ラスト1周のレースとして再開されレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手(33号車 レッドブル・レーシング・ホンダ)が、ルイス・ハミルトン選手(44号車 メルセデス)をオーバーテイクし、大逆転で優勝した。
フェルスタッペン選手は自身初、そしてホンダパワーユニット搭載車をドライブしたドライバーとして1991年の故アイルトン・セナ以来30年ぶりにチャンピオンとなった。
ホンダF1ラストイヤーでドライバーチャンピオン獲得 F1最終戦アブダビGPでフェルスタッペンが最終ラップに大逆転優勝
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1373508.html
チームメイトのペレス選手は、レース中にハミルトン選手を抑えるときにパワーユニットを酷使したことなどからパワーユニットにトラブルが発生し終盤リタイア。コンストラクター選手権ではメルセデスが8年連続でチャンピオンとなった。
レース後にメルセデスチームからセーフティカー状態の解除前にフェルスタッペン選手がハミルトン選手を抜いたのではないかという件、さらにはセーフティカー状態が解除される前に周回遅れを先行させた手順が間違っていたのではないかという件に関して抗議が出されたが、いずれもレーススチュワード(レース審査委員会)により却下され、レース結果はそのまま確定した。
レース終了後、ホンダF1 テクニカルディレクター 田辺豊治氏のオンラインインタビューが行なわれたので、その模様をお届けしたい。
ホンダF1に関わったすべての関係者、応援してくれたファンなどに感謝したいと田辺TD
──それでは始めに田辺氏からレースを振り返っていただきたい。
田辺氏:ホンダF1、最後の年、最後のレース、最終ラップでマックス・フェルスタッペン選手がトップに立って優勝してくれた。メルセデスチームから抗議が出ているので、裁定がどうなるのかは結果を待つしかないが、それは置いておくとして4台完走、4台入賞、チャンピオン獲得を常に目標として掲げてきたが、今回はセルジオ・ペレス選手のパワーユニットに異常が出てしまいリタイアせざるを得なくなってしまったのは残念だった。
また、角田裕毅選手は、今年初挑戦となるF1で出だしはよかったものの、中盤以降は苦しい時期もあった。そうした中でしっかりF1を学んで精神面なども厳しい環境にさらされて、その中で学んで成長してきた。今週末は、金土日とキッチリ組み立ててきて4位を獲得した。ガスリー選手はクルマをまとめることに苦労していたが、最後はしっかりレースをまとめてきて5位。アルファタウリ・ホンダに関してもよい形でシーズンを終えることができた。
これまでホンダF1の活動を支えてくれた人すべてに感謝したい。今年フェルスタッペン選手がドライバーチャンピオンを獲ったが、2015年からの7年間は苦しい時代を経て今年チャンピオンシップを戦えるポジションまで来ることができたことをうれしく思う。残念ながらコンストラクター選手権は獲れなかったが、自分たちの技術を信じて勝つのだという気持ちを持って開発を続けてくれた開発陣、それを支えてくれたオペレーションやトラベルのメンバー、さらに海外にメンバーを送り出してくれたその家族のサポート、そういうことがあっての今日の結果でうれしく思っている。
ホンダF1にこれまで関わってくれた方、またオールホンダでという話も何度かさせていただいたが、すべてのホンダの関係者、そしてレッドブルやアルファタウリのチーム関係者、FIA、FOMなどを含めてすべてのF1関係者やサポートしてくれた人たちにも感謝の気持ちを言いたい。
──最終ラップ、パワーユニットのモードはどんなモードだったのか?
田辺氏:とても興奮していたのでよく覚えていない……。いつもと一緒で路面のコンディション等を見ながら、エネマネをやっていた。無鉄砲に使うわけにはいかないので、そこはうまく使った。
──チェッカー瞬間の気持ちを教えてほしい。
田辺氏:一言で言えばうれしかった。先ほども言ったが、長年いろいろなことを経験させてもらった。そしてHRD Sakura、ミルトンキーンズ、ホンダ本社、チームメンバー、ホンダF1のアルファタウリ担当メンバーも含めて、彼ら彼女らのおかげだと思っている。彼ら彼女らに本当におめでとうと言いたい気持ちだ。
──1991年のアイルトン・セナ以来、30年ぶりのタイトルはどういう意味があるか?
田辺氏:ホンダがレースに参戦するに当たっては、いかなりカテゴリーでも1番を目指して戦っているが、F1では91年以来獲れていなかった。自分も関わっていた第3期F1(00年~08年)では、ジェンソン・バトン選手の06年ハンガリーGPの優勝が唯一で終わってしまった。
ハイブリッド時代では、出だしこそ厳しかったが自分たちの技術の証しとしてチャンピオンを獲れたこと、応援していただいてくれた方々に応援したかいがあったなということを感じてもらえるとうれしい。
会社としてグループとして努力することは大事で、1番を目指して本気でやったことが将来の肥やしになる。今回ドライバー選手権のタイトルは獲れ、コンストラクターは獲れていないが、毎回1番になるためにサーキットに来ていて全関係者が勝ちにこだわってやってきた。その努力とこだわりが、われわれがホンダで働いていく上で経験として役立つと考えている。それは仮に獲れていなくても役立つと思っている。
──F1参戦終了となるが、今の気持ちは?
田辺氏:HRD Sakuraのメンバーともインターコムで話してきたが、ここまでやってきて最後の最後でドライバーチャンピオンを獲った。それは1つの達成感を持っているところだ。
──レース中、ハミルトン選手はとても速く、フェルスタッペン選手のペースはそれに比べて劣っているように見えた。正直レース中にはちょっと無理かなと思っていたか?
田辺氏:いつも言っているが、レースは終わるまで何があるか分からない。終わって結果を見なければ分からない。しかし、ある程度予想はできたりするので、最終スティント、ハミルトン選手がタイヤ交換せず、フェルスタッペン選手は交換。毎ラップどれくらいつめればいいのかというのは最終ラップまでいっても難しいかもしれないというのはあったし、仮にオーバーテイクしようとすれば、ハミルトン選手も阻止する形になると思っていた。その意味では難しいかなとは思っていた。
しかし、最後までやってみなければ分からないというのは、これまでもよい意味でもわるい意味でもあった。勝ち負けもあるけど、クルマのコンディションの確認をしながら、最後まできちんと走らせ、問題があれば迅速に対処するという形でやっていた。
──いろいろな方に感謝を述べていた。最後が重なったチャンピオンだが、できすぎな気もするが……。
田辺氏:今回チームワークの大事さを改めて感じた。それはホンダ側もそうだし、レッドブル、アルファタウリといったチーム側のチームワークもそうだ。レース中のセルジオ・ペレス選手のフェルスタッペン選手をチャンピオンにするためのチームワークもそうだ。
15年からハイブリッド時代のF1に取り組んできて、最初はマクラーレンと一緒に苦労した。18年にトロロッソと仕事を始めてオープンマインドでクルマを速くすることに取り組んできた。それがレッドブルとのパートナーシップになり、クルマを速くするにはどうしたらいいか、設計段階やオフィス、現場で施策を回してきた。
ドライバーも含めてチームワークをしてきたことが今日の結果に結びついたと言える。アルファタウリもフェルスタッペン選手とホンダのチャンピオンを喜んでくれていた、まさにチームワークの結果だ。
──今回のレースでパワーユニットは最後のレースになる。マイレージを攻めて使ったコンポーネントなどはあったのか?
田辺氏:特にない(笑)
──セーフティカー明けのリスタートに向けては、特別な設定などはしたのか?
田辺氏:エネマネの話で、ためるだけためて使うだけ使うとなる。
──もうちょっとやりたないという気持ちはあるか?
田辺氏:ホンダとしてのけじめとして、供給を終了する今年に、コンストラクター選手権は逃したがフェルスタッペン選手がポールポジション10回、優勝10回でドライバーチャンピンを獲得することができた。その意味で最終ラップはホンダにとってよいけじめになったと思っている。
──ホンダはもう1回F1やったほういいか?田辺氏個人としてはどう思うか?
田辺氏:会社としての方向付けとしては、今年で供給は終了となる。あくまで私個人の見解として、エンジニアの教育、メンタル、技術スキルの面で、(F1参戦は)ものすごく有益なプロジェクトだと思っている。第3期F1参戦を終えた後、F1をやっていた人が量産に散っていった。そして量産をやってきた人とレースをやってきた人が交わることでよい効果を生んできた。
ホンダはレースを走る実験室という言い方をしているが、技術者の教育の場として使うのは素晴らしい場だと思う。エネルギーマネジメント、バッテリ、ICEの燃焼などに関しては今までのレベルから大きく踏み込んでやってきた。会社がどう判断しているか分からないが、ホンダのDNAにはレースをやって技術者を育成するということが脈々と流れており、いつの日か(戻ってくることを)願っている。
私はこれで終わりだが、海外に出て仕事をする海外のエンジニアとせめぎ合いながら限られた時間の中で仕事をすることは有益で、ぜひ若い人にもそういう経験をしてほしいと願っている。
──ホンダがF1で頂点に立ったが、ホンダのやり方でほかと比べて長所はなんだと感じているか?
田辺氏:海外のチームと付き合ってみて、あるいはほかのパワーユニット・マニファクチャラーの話を聞いて思うのは、(海外のチームやマニファクチャラーは)仕事が細分化されており、隣の人がなにやっているのか知らない状態で仕事していることが多いということだ。担当領域は詳しいけど、専門外のことは知らないことが多い。
それに対してホンダは全体で動いていて、お互い分かりあった上で仕事ができている。こうありたいということがあっても、最適は何か、ジェネラルにものを理解した上で、自分の得意とする領域は責任持つ。これは、自分には関係ないから知らないという言い方はしない、そういうところが強いのではないかと感じている。
F1第22戦アブダビGP 決勝結果(確定)
順位 | 号車 | ドライバー | 車両 | 周回数 | タイム | ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 33 | マックス・フェルスタッペン | レッドブル・レーシング・ホンダ | 58 | 1時間30分17秒345 | 26 |
2 | 44 | ルイス・ハミルトン | メルセデス | 58 | +2.256秒 | 18 |
3 | 55 | カルロス・サインツ | フェラーリ | 58 | +5.173秒 | 15 |
4 | 22 | 角田裕毅 | アルファタウリ・ホンダ | 58 | +5.692秒 | 12 |
5 | 10 | ピエール・ガスリー | アルファタウリ・ホンダ | 58 | +6.531秒 | 10 |
6 | 77 | バルテリ・ボッタス | メルセデス | 58 | +7.463秒 | 8 |
7 | 4 | ランド・ノリス | マクラーレン・メルセデス | 58 | +59.200秒 | 6 |
8 | 14 | フェルナンド・アロンソ | アルピーヌ・ルノー | 58 | +61.708秒 | 4 |
9 | 31 | エステバン・オコン | アルピーヌ・ルノー | 58 | +64.026秒 | 2 |
10 | 16 | シャルル・ルクレール | フェラーリ | 58 | +66.057秒 | 1 |
11 | 5 | セバスチャン・ベッテル | アストンマーティン・メルセデス | 58 | +67.527秒 | 0 |
12 | 3 | ダニエル・リカルド | マクラーレン・メルセデス | 57 | +1周 | 0 |
13 | 18 | ランス・ストロール | アストンマーティン・メルセデス | 57 | +1周 | 0 |
14 | 47 | ミック・シューマッハ | ハース・フェラーリ | 57 | +1周 | 0 |
15 | 11 | セルジオ・ペレス | レッドブル・レーシング・ホンダ | 55 | DNF | 0 |
NC | 6 | ニコラス・ラティフィ | ウイリアムズ・メルセデス | 50 | DNF | 0 |
NC | 99 | アントニオ・ジョビナッツィ | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 33 | DNF | 0 |
NC | 63 | ジョージ・ラッセル | ウイリアムズ・メルセデス | 26 | DNF | 0 |
NC | 7 | キミ・ライコネン | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 25 | DNF | 0 |
ドライバーランキング(F1最終戦終了後)
順位 | ドライバー | 国 | 車両 | ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | マックス・フェルスタッペン | NED | レッドブル・レーシング・ホンダ | 395.5 |
2 | ルイス・ハミルトン | GBR | メルセデス | 387.5 |
3 | バルテリ・ボッタス | FIN | メルセデス | 226 |
4 | セルジオ・ペレス | MEX | レッドブル・レーシング・ホンダ | 190 |
5 | カルロス・サインツ | ESP | フェラーリ | 164.5 |
6 | ランド・ノリス | GBR | マクラーレン・メルセデス | 160 |
7 | シャルル・ルクレール | MON | フェラーリ | 159 |
8 | ダニエル・リカルド | AUS | マクラーレン・メルセデス | 115 |
9 | ピエール・ガスリー | FRA | アルファタウリ・ホンダ | 110 |
10 | フェルナンド・アロンソ | ESP | アルピーヌ・ルノー | 81 |
11 | エステバン・オコン | FRA | アルピーヌ・ルノー | 74 |
12 | セバスチャン・ベッテル | GER | アストンマーティン・メルセデス | 43 |
13 | ランス・ストロール | CAN | アストンマーティン・メルセデス | 34 |
14 | 角田裕毅 | JPN | アルファタウリ・ホンダ | 32 |
15 | ジョージ・ラッセル | GBR | ウイリアムズ・メルセデス | 16 |
16 | キミ・ライコネン | FIN | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 10 |
17 | ニコラス・ラティフィ | CAN | ウイリアムズ・メルセデス | 7 |
18 | アントニオ・ジョビナッツィ | ITA | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 3 |
19 | ミック・シューマッハ | GER | ハース・フェラーリ | 0 |
20 | ロバート・クビサ | POL | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 0 |
21 | ニキータ・マゼピン | RAF | ハース・フェラーリ | 0 |
コンストラクターランキング(F1最終戦終了後)
順位 | チーム | ポイント |
---|---|---|
1 | メルセデス | 613.5 |
2 | レッドブル・レーシング・ホンダ | 585.5 |
3 | フェラーリ | 323.5 |
4 | マクラーレン・メルセデス | 275 |
5 | アルピーヌ・ルノー | 155 |
6 | アルファタウリ・ホンダ | 142 |
7 | アストンマーティン・メルセデス | 77 |
8 | ウイリアムズ・メルセデス | 23 |
9 | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 13 |
10 | ハース・フェラーリ | 0 |