東京モーターショー2017
【東京モーターショー2017】「パナメーラ スポーツツーリスモ」のデザインについてポルシェデザイナー 山下周一氏に聞く
シューティングブレークでも「ポルシェである限り絶対にスポーツカーでなければ」
2017年10月28日 08:44
- 2017年10月25日 開幕
- 2017年10月27日 プレビューデー
- 2017年10月28日~11月5日 一般公開日
東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開幕中の「第45回東京モーターショー2017」でポルシェ「パナメーラ スポーツツーリスモ」がジャパンプレミアされた。
プレスカンファレンスのレポートは既報のとおりだが、本稿ではこのモデルのエクステリアをデザインした、ポルシェAG エクステリアデザイナー 山下周一氏から話をうかがえたので、ここにお届けする。
――まずは山下さんのこれまでの経歴、デザインを手掛けたモデルについて教えてください。
山下氏:ポルシェでは2006年から務め始めて11年目になります。その前の2001年~2006年がスウェーデンのサーブに、さらにさかのぼるとメルセデス・ベンツで日本の港北スタジオに5年いて、その後ドイツに移り2年間仕事をしました。代表的な仕事では、メルセデス・ベンツ時代には「第32回東京モーターショー1997」で発表された、マイバッハのショーカーのエクステリアデザインを手がけました。また、第2期「SLK」のインテリアも手がけました。
――ポルシェでのお仕事はどのようなモデルになりますか?
山下氏:997 スピードスター、第1世代のパナメーラのフェイスリフト、最近では911 GT3、そして本日(10月25日)に発表させていただいたパナメーラ スポーツツーリスモのエクステリアデザインになります。
――パナメーラ スポーツツーリスモをデザインするにあたり、どのような部分に主に気を付けたのでしょうか。
山下氏:ラゲッジルームを大きくとっても、ポルシェである限り絶対にスポーツカーでなければなりません。ラゲッジルームを増やすとどうしても屋根が伸びてきます。そうするとどうしても商用車っぽくなってしまうので、屋根をいかに短く見せるか、なおかつラゲッジルームを増やすか、その最適なバランスに一番苦心しました。とにかくこの点に尽きます。そして「どこから見てもポルシェに見えるように」というのは意識します。それがフロントやリアからのスリークォーター(4:3の比率での斜めからの眺め)、どこから見てもひと目でポルシェと分かるようにデザインすることが重要になってきます。
――シューティングブレークというと942(33年前の1984年に928をベースにしてフェルディナンド・ポルシェ75歳の誕生日祝いとして贈られた特別なモデル)が思い出されますが、今回のパナメーラ スポーツツーリスモでは受け継がれた部分は何かあるのでしょうか。
山下氏:もちろんインスパイアは大いに受けています。ポルシェではデザインをする際に、そのDNAをとても大切にするのです。新しいクルマを作っても、どこかにそのDNAを感じるように作るというのが、ほかのメーカーと違う部分かも知れません。総じてドイツのメーカーはそのような傾向にあると感じます。日本メーカーでは、今あるものをリセットして新しいモデルを出しますが、ドイツの会社ではそういうことはまずありません。常に過去を見ながら、それを新しいプロダクトに活かしていきます。解釈を変えたりモチーフを使ったり、さまざまな手法があります。
――ガチガチのスポーツカーではなくなりラゲッジルームが付きましたが、クルマにあまり詳しくない人が見ても、一見してポルシェであることが判別できます。これにはある種のマジックを感じます。
山下氏:例えばですが、ボンネットとフェンダーがありますよね。このとき必ずフェンダーの方が高く見えるようにデザインします。ボンネットのシャットラインというのがあり、必ずV字型に入っているのですが、パナメーラに関してはV字に入りながらも、強調するようにシャープなエッジが効いているのです。ほかにもリアフェンダーの方が大きめに張り出していたり、サイドウィンドウのグラフィックスという部分ですね。これはもちろん911から来ているのですが。こういったDNAです。
――そうしたデザインポイントが何点かあるわけですね。やはり911からですか。
山下氏:もちろん! 911からのインスパイアです。
――パナメーラからシューティングブレークのスポーツツーリスモに変えていくに当たって苦労された点はありますか?
山下氏:やはりラゲッジルームになりますね。スペースが同じならクーペでいいじゃないかということになりますから、クーペより明らかに容量が多いんだということを言いながら、スポーツカーにするという部分ですね。横から見たリアグラスの角度によって、クルマの見え方が大きく変わってきます。立てていくと容量は増えるのですが、あまり立てすぎると、例えば角張った歴史あるボルボのようになっていきます。パナメーラでありながら荷室容量を増やすという部分がポイントです。
――とにかく、あの特徴的なリアのラインに苦心されたということですね。
山下氏:利便性も考えています。リアゲートのローディングハイ(バンパー部の位置)がセダン比べて低く設定されていて、荷物を載せやすいようになっています。リアドアを開けた時の全開する高さは、ボタンの長押しで調整ができます。背の高いドイツ人向けに大きく開くように作られています。
――2+1のリアシートでのデザインで苦労された部分はありますか。
山下氏:エクステリアデザイン担当なので直接関わってはいませんが、パナメーラは車高が低いので、ドライブトレーンが高めになってしまいます。そのため、セダンでは中央席はないのですが、そこを座れるようにスペースを作るのに苦心しているはずです。クッションの厚みや素材選択に苦労したのではと思います。
――空力の視点からシューティングブレークのデザインで工夫はありますか。
山下氏:スポーツツーリスモのリアスポイラーを見ていただくと、「アクティブ リア スポイラー」という速度で可変するスポイラーが付いています。これを装備するにはとてもコストがかかるのですが、スタイリングを優先するためにあえて採用しています。空力だけで考えると、リアスポイラーは思い切り立ててしまったほうがいいのですが、そうするとスタイリングが完全に犠牲になってしまいます。この部分は社内でも大いに議論があった部分です。立ててしまったほうが空力特性はよいがポルシェには見えなくなる。これをアクティブ リア スポイラーで解決しようということになりました。ベースのパナメーラはランプの上で、パナメーラ スポーツツーリスモは屋根とリアグラスの間にあります。