ニュース

スバル、ニュル24時間でクラス3連覇目指す「SUBARU WRX STI」(2020年仕様)をシェイクダウン

コーナー性能を高めたGT300マシン「SUBARU BRZ R&D SPORT」も

2020年2月26日 開催

富士スピードウェイでシェイクダウン走行を行なう「SUBARU WRX STI」

 スバルとSTI(スバルテクニカインターナショナル)は2月26日、ドイツ ニュルブルクリンクで開催される「第48回ニュルブルクリンク24時間レース」(現地時間5月21日~24日開催)の参戦マシン「SUBARU WRX STI」と、4月に開幕する2020年シーズンのSUPER GT GT300クラス参戦マシン「SUBARU BRZ R&D SPORT」のテスト走行を富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で実施した。

クラス3連覇を目指す「SUBARU WRX STI」

2020年仕様のSUBARU WRX STI

 スバルとSTIは2008年から13年連続でニュル24時間レースに参戦しており、排気量2.0リッター以下のターボエンジン搭載車による「SP3Tクラス」で6回のクラス優勝を獲得。2018年、2019年とクラス連覇を果たしており、2020年の3連覇を目指している。

 同日にサーキット走行のシェイクダウンを行なった2020年仕様のSUBARU WRX STIは、2011年以来7回目となるSP3Tクラス3連覇と合わせ、総合順位でも過去最高の18位以内でのフィニッシュを目標として設定。このための課題として、「予選タイムのクラスコースレコード(8分56秒)更新」「全スティント9ラップ(約225km)走行」「自己記録でありクラス最多の周回数(146周)更新」の3点を設定してマシン開発が行なわれた。

SUBARU WRX STI

 コンスタントな走行を実現するため、搭載する「EJ20」型エンジンの燃費を改善。燃料タンクのエア抜き効率を高め、タンク容量の100Lを満タンにする時間を短縮している。ボディではカラーリングが一新され、同日に走行したGT300クラス参戦マシン SUBARU BRZ R&D SPORTと同様のデザインを採用。車体側面のSTIロゴが大きくなり、側面からリアに施されるチェリーレッド塗装が後方に向けてキックアップ。力強さと疾走感が表現されている。

 また、ボディでは2019年から新たに採用された「サメ肌塗装」をリファイン。既存のフロントフェンダーとドアミラー、リアウイングステーなどに加え、ルーフの車両前方側に細いライン状に配されるようになった。さらにエアロパーツでフロントフェンダールーバーの大型化とフロントカナードの2枚化、吊り下げ式リアウイングの採用などが行なわれ、空力性能を改善。前面投影比の縮小による高速時の負荷低減、燃費向上などを目指して車両の全幅をナロー化。車両のトレッド幅は2019年と同一だが、余裕があったタイヤとフェンダーのクリアランスを減らし、片側30mm、計60mmナロー化している。

タイヤとフェンダーのクリアランスを減らして全幅を計60mmナロー化
フロントフェンダールーバーがさらに大型化
フロントカナードは同形状2枚となった
ドアミラーには新たにスポンサーロゴが追加され、「サメ肌塗装」が外周部分のみに変更された
リアウイングはスワンネックの吊り下げ式に変更。ステーはサメ肌塗装されている
ルーフ前方に細いライン状のサメ肌塗装が追加された。ルーフがシルバー塗装となっているのは、キャビン内の温度上昇を少しでも抑えるため
SUBARU WRX STIのエンジンルーム
外観で見えているインタークーラーダクト以外にも、ボンネットには導風機構や排熱口が複雑に配置されている
マフラーエンドの周囲に配置されている金色の遮熱パネルは、人工衛星などでも採用されているもの

 足まわりでは、2019年のレース参戦時に選手から「ニュルブルクリンクでは車体が動きすぎる」との指摘があったことを受け、サスペンションジオメトリーを変更してロールセンターを引き下げ、アッカーマンジオメトリーを最適化。ブレーキでは新ABSシステムを採用したほか、ブレーキパッドは1セットでは24時間を走り切ることができないため、レース中の交換を前提としてフロントブレーキの摩材を薄型に変更。フロントブレーキ2個で約650gの軽量化を果たしている。

 タイヤ開発におけるファルケン(住友ゴム工業)との協力体制をさらに進め、走行当日も新たに開発されたスリックタイヤを装着。前日から降り続いた雨が走行開始直前まで弱く降り続き、日差しのない曇り空で路面温度が上がらずタイム計測が見送られる1日となったが、低温度帯からしっかりとグリップ力を発揮する新しいソフトタイヤでシェイクダウン走行が続けられた。

フロントブレーキではブレーキパッドの摩材を薄型化。両側で約650gの軽量化を果たしている
リアの足まわり。リアフェンダー後方に8都道府県のスバルディーラーの名前が並ぶ
2020年もファルケンタイヤを装着してニュルブルクリンク24時間レースに挑む。当日は雨上がりで気温も低かったが、タイヤウォーマーで温められた低温度帯対応の新型スリックタイヤでシェイクダウン走行が行なわれた
シェイクダウン走行を行なった山内英輝選手(左)、井口卓人選手(右)
ニュルブルクリンク24時間レースのドライバー体制は、2019年と同じくカルロ・ヴァンダム選手、ティム・シュリック選手、山内英輝選手、井口卓人選手の4人
ニュルブルクリンク24時間レースのチーム総監督を務める辰己英治氏(左)、チーム運営監督の沢田拓也氏(右)
ドライバー交代やマシンチェックなどを挟みつつ、シェイクダウンテストが続けられた

SUPER GT GT300クラス参戦マシン「SUBARU BRZ R&D SPORT」

2020年仕様の「SUBARU BRZ R&D SPORT」

 海外でも高い人気となっているSUPER GTのGT300クラスに参戦するSUBARU BRZ R&D SPORTは、GT300クラスのシリーズ優勝を目標として設定。目標達成に向けた技術的課題として、「エンジンの耐久性・信頼性の向上。重心高の変更」「タイヤ特性の向上とメカニカルグリップの向上」「空力・制動性能の向上」の3点に重点を置いてマシン開発が進められた。

 ボディではコンピューター解析によってボディ剛性の前後バランスを見直し、補強部分の改良などを行なって重量増を抑えつつ全体的な剛性を高めた。前出のようにボディのカラーリングはニュルブルクリンク24時間レース参戦車と同様のデザインが与えられているが、カラーリング変更に合わせてボディのカウルパネルを研磨。カウルパネルの薄肉化という地道な軽量化も図られている。

 EJ20型エンジンは、参戦を続ける中で向上を果たしてきたエンジンパワーに負けない信頼性を確保するため、2019年のレース中にトラブルが発生したパーツの見直し、組み立て時のチェック体制確立など運用や管理の面で改善を実施。パワートレーンでは、これまでエンジンルーム内に置かれていたオルタネーターをトランスアクスル化されているリア側にレイアウト変更。重量バランスの最適化を推し進めた。

SUBARU BRZ R&D SPORT

 また、エンジンや駆動系といったパワートレーン全体の搭載位置を低く抑えるため、干渉するフロア下のパネルを削るなどの改良を実施。マスの集中化でヨー慣性モーメントを低減した。実際に低下した高さは数mmとのことだが、基本構造から重心が低い水平対向エンジンのメリットがさらに向上し、連続するコーナーでのステアリング切り返しなどのシーンで高い威力を発揮するという。

 このほかにもSUBARU BRZ R&D SPORTの持ち味であるコーナーリングスピードをさらに高めるため、前後サスペンションの取り付け部の剛性を高め、サスペンションジオメトリーを改善して対地キャンバーを最適化。タイヤのテクニカルパートナーであるダンロップ(住友ゴム工業)との共同開発体制を強化して、コース特性にマッチするタイヤ開発を推し進めていくという。また、コース特性に合わせた空力性能の細かなコントロールを行なえるよう、フロントスプリッターやリアディフューザーの形状を変更。カナード類も形状変更している。

2020年の大きな改良点として、パワートレーンの配置低下を実施。重量物であるエンジンなどをより低くレイアウトすることでコーナーリングスピードを高める
フロントスプリッターやリアディフューザーの形状を変更
前後サスペンションの取り付け部の剛性をアップ
ピットスペース内での作業中には、サイド排気部にマフラーが追加されていた
GT300クラスもこれまで同様、井口選手と山内選手の2人で参戦
スバルテクニカインターナショナル株式会社 代表取締役社長 平岡泰雄氏(左)とGT300クラス参戦の総監督を務める渋谷真氏(右)
SUBARU BRZ R&D SPORTも走行テストとピット内でのチェックなどが繰り返された
テスト走行の合間には、かつて辰己総監督とコンビを組んでレース参戦したこともあるモータージャーナリストの桂伸一氏が、2016年仕様のSUBARU WRX STIでコース走行するシーンもあった