まるも亜希子の「寄り道日和」
女性ライダー 堀ひろ子さんと、いくつもの出会い
2018年9月20日 00:00
もはや伝説となっている女性ライダー、堀ひろ子さんをご存知でしょうか。とても美人で手足がスラリと長くて、バイクに乗る姿がもうため息モノのカッコよさ。でもそれだけでなく、1970年代にまだ女性の参加が許されていなかったバイクレースに出場すべく、猛練習して周囲を認めさせたり、バイクで世界一周ツーリングやサハラ砂漠縦断にチャレンジしたり、生き方そのものが本当にカッコいい女性なんです。
私は堀ひろ子さんの存在を知った時からどんどん彼女に夢中になり、寝ても覚めても頭の中が彼女でいっぱいの時期がありました。古本屋で彼女の著書や、登場していた雑誌を買い漁り、何度もなんども読み返して言葉1つひとつを噛み締め、尊敬したり共感したり。できることなら彼女に会いたい、と切望したほどです。でも残念ながら、それは叶わぬ夢でした。私が知った時にはもう、彼女はこの世の人ではなかったからです。
そんな堀さんと出会わせてくれたのが、自動車雑誌「ahead」。2010年の4月号から、堀さんの当時の友人たちや、仕事を一緒にしていた関係者たちに会いに行き、いろんなエピソードを伺って、当時の彼女やバイク業界などについてつづるという連載コラムを任せてくれました。
当時の編集長だった神尾さんいわく、「堀さんが憑依したみたいだった」という私。自分ではそんな自覚はなかったのですが、確かに夢でうなされたり、何時間も考え込んだり、何より原稿を書くのに苦しんで苦しんで、今までで一番、何度も書き直したのを覚えています。
でも、そんな苦しみの一方で、心から尊敬できる女性たちとの出会いに恵まれ、それは今の私の支えにもなっています。その女性の1人が、腰山峰子さん。旧姓は今里峰子さんといって、堀さんがライダーとして絶大な信頼と友情を注ぎ、耐久レースやサハラ沙漠縦断ツーリングのパートナーとして、一緒にチャレンジした女性なんです。
峰子さんは今でも、当時のツナギやヘルメット、堀さんが手作りでプレゼントしてくれたというウェディングドレスなどを大切に保管していて、少し前から若手女性ライダーの育成にも力を注いでいます。レースやイベントにはいつも山盛りの美味しそうな差し入れを作っていったり、時間があれば災害ボランティアにも参加したり、精力的に活動している峰子さん。見ているだけでパワーをもらえる女性です。
そしてもう1人は、aheadでの堀さんのコラムを読んで、「ぜひウチでも書いてもらえませんか」と連絡をくれた、当時は「MOTO NAVI」の編集者をされていた松崎祐子さん。堀さんのような女性ライダーがいたことを、もっと多くの女性たちに知ってもらいたいと言っていただいて、私は本当に嬉しく思いました。
松崎さん自身も、20代前半からずっとバイクが生活の一部という生き方をしていて、もともとファッション業界を目指していたというセンスのよさもあり、なんでもカッコよく乗りこなす女性です。編集者のころから、「もっと女性ライダーが本当に求める情報を届けたい」「そうすることで女性ライダーを応援したい」という想いを持っていた松崎さんでしたが、Facebook上のコミュニティ「バイク女子部」を主宰し、ツーリングなどを通じてますます女性ライダーたちの生の声を聞くにつれ、その想いがどんどん強くなって……。ついに独立し、2018年4月に女性ライダーに向けた情報サイト「Lady Go Moto!」を立ち上げたんです。
そして先日、ahead 現編集長の若林葉子さんが、松崎さんにインタビューする機会を作ってくれました。そこでは、松崎さんの半生を振り返るだけでなく、編集者、Webサイト主宰者、ジャーナリストという3つの視点から、今後のバイク業界、クルマ業界をどうやって盛り上げていくか、なんて話が予定時間をはるかに超えて飛び交いました。
その1つとして、若林さん、松崎さんから「あの堀さんの記事はもっとたくさんの人に読んでもらいたいよね」とありがたい意見をいただいて、なんとLady Go Moto!で今月から、2010年に私が書いた「堀ひろ子という友人」が再掲載されることとなりました。8年前の私の原稿は、今見るとなんだか青臭いようで恥ずかしいのですが、堀さんのこと、当時のバイク業界のこと、頑張ってつづっていますのでぜひ覗いてみてほしいです。
私は2輪免許を取らないまま、先にクルマにのめり込んでしまって、2輪は「スーパーカブ」しか乗ったことがないんですが、それでもバイクの世界観はとても好きで、とくに女性ライダーのしなやかさと強さが共存する生き方に、シンパシーを感じてしまうんですよね。だから、バイクは乗らない、嫌い、という人も、「1つの時代を切り拓き、駆け抜けた女性の物語」として、楽しんでいただけたら嬉しく思います。